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特集「昭和のスター列伝」

2021年2月20日

特集「昭和のスター列伝3」市川雷蔵⑳ 
忠直卿行状記(上)(1960年 事実に基づく映画)

監督 森一生

出演 市川雷蔵/小林勝彦/水谷八重子(初代)

シネマ365日 No.3482

21歳の君主 

特集「昭和のスター列伝3」

松平忠直(市川雷蔵)が、父徳川秀康の死により越前67万石の大封を継いだのはわずか13歳。秀康は将軍秀忠の兄。忠直は将軍の甥、大御所・家康の孫に当たる。21歳で大坂夏の陣に出陣、敵将真田幸村の首を討ち取る大手柄を上げ、精悍の気、眉宇に溢れさせ越前に帰城した。これほど恵まれた環境で英才教育を施され、学問武芸に励む青年が将来の英君と嘱目されるのは当然ですが、そうならなかったのは誰のせいでもない、忠直本人のせいよ。求めれば労せず与えられ、厳しい懲罰を与える者もおらず、彼の意志と感情を抑制するブレーキ装置を持たないまま成人したわけよ。紅白に分かれた槍試合で白軍の大将を務めた忠直は、家中の名だたる達人たちを退け、自軍を勝利に導いた。祝宴でホロ酔いになり、庭で休んでいると家来が通りかかり「殿の本当のご力量をどう思う?」「上達され以前ほどをお譲りするのに苦労しなくなった」というのが聞こえた▼これで忠直は人が変わっちゃう。生まれてこのかた「人が俺の身に降り注いでくれた賞賛はみな偽りのものだったのか」字がうまく書けた「若が一番」蹴鞠をすれば「若が一番」なんでもトップだったのはお追従であった…忠直の自信と誇りはズタズタになる。鍛錬に勤しんだ武芸を遠ざけ明けても暮れても酒。侍る女にも冷たい視線を注ぎ「この女は俺を愛しているのではない。美しい笑顔も上辺だけ。愛の代わりに、友情の代わりに、信頼の代わりに服従があるだけだ。幕の向こうでは誰もが人間らしく振舞っているのに、俺だけが幕の内側に取り残されている」。野駆けをすれば農家の女をレイプし「傀儡の女より反抗を示す女を愛したい」。ご乱行は高じ「婚約中でも人妻でも構わん、連れて来い」とまるで色魔である。とうとう江戸表に知られることとなった。家老たちが善後策を講じるが、忠直の狂態を公儀に申し開きする難しい役を誰にするか。白羽の矢が浅水与四郎(小林勝彦)に立った。忠直と幼馴染であり、兄弟のように育った▼表向きの理由は忠直の実母・清涼院(水谷八重子=先代)のご機嫌伺いだ。忠直は疑わず「俺も母上に会いたい。子供の頃離れ離れになって、母上は大人になった俺を知らぬ。この姿をお見せしたい」とすっかりママっ子である。ところが陪審の1人が、与四郎出府の本当の理由は幕府重臣へのとりなしであり、忠直の行状が治らぬ時は所領召し上げの意向であると耳に入れる。忠直は与四郎まで自分を裏切ったと煮え繰り返る。諫言した国家老・本多富政の意見を退け忠臣は切腹する。富政は幕府の意を受けて就任したご意見番である。「それを私刃させるとは」徳川家家老・土居大炊頭利勝は忠直切腹を決めた。公儀の決定を知らせる上使が越前に向かった。福井城天守から見た松明の行列は、延々と山を囲み途切れることなく続く。ただの上使の一行ではない、これは戦を仕掛けてきたのだ。忠直は武具に身を固め、槍を小脇に「城門を閉じよ。武器をとって配置につけ」と下知する。老臣の1人が転がり出て「上使に会いもせず刃向かったとあればお家お取り潰しより他にございません」(忠直だけが切腹なら家臣と領地は安泰なわけ)。「何とぞ上使にご対面のほどを」袖にすがるようにしてかき口説く。忠直も我に返り「戦うのはいつでも戦える、死ぬのはいつでも死ねる。城門を開けよ!」。礼服に身を改めた忠直は重臣一同を従え、大広間で平伏したまま上使を待つ。畳を擦るかすかな音とともに上使が着座した。面を上げた忠直が、出迎えの口上より先に発したのは「母上!」。尼僧の清涼院が端座し口を開いた。「忠直どの。やつれましたのう」。

 

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