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特集「神も仏もない映画」

2021年2月22日

特集「神も仏もない映画5」① 
葛城事件(上)(2016年 社会派映画)

監督 赤堀雅秋

出演 三浦友和/南果歩/若葉竜也/新井浩文/田中麗奈

シネマ365日 No.3484

藪枯らし 

特集「神も仏もない映画5」

二度と見たくない映画高ランク入り。主人公・葛城清の妻と二人の息子が哀れだわ。彼らがおかしくなってしまった原因は父親よ。親から受け継いだ金物屋をやっている清(三浦友和)は、良き家庭を作ろうとそれなりにいい父親で、家も買った、息子二人が生まれた、妻は美しく、特別裕福でもないが暮らしには困らない収入と家業がある。息子たちは成人し、長男・保(新井浩文)は会社員、弟・稔(若葉竜也)はプータローだ。小さい時から何をしても兄と比べられた。アルバイトをしているが続かない。父は「辞めた? 今年に入って何回辞めた」。兄は聞き辛そうに「俺、家を出てマンションでも借りるよ。そろそろ自立するよ」。稔はしゃあしゃあと「今は自分なりに試行錯誤の期間なのですよ。温かく見守ってください」▼この次男が連続殺傷事件を起こし死刑が確定した。親父は言う「子供の頃から勉強を教えてやった。お兄ちゃんはよくできた子で漢字の書き取りを熱心に練習していた。弟は目立たず一人で遊ぶ子だったが我慢を知らん。同じ兄弟でこうも違うのか。俺はやるべきことはやってきたのだ」とは本人の弁だ。彼は自分が間違っているとは決して思わない。自己中心的、高圧的、自分の価値観から外れるものは、息子だろうと妻だろうと罵詈雑言、あまつさえ暴力を振るい、口答えしたら倍返しの殴る、蹴る。妻は恐怖で口数も少なく、息子たちはうちに閉じこもった。兄は対人関係が結べなくなり、会社をリストラ。「行ってきます」と玄関を出た後、公園でパズルを広げ時間をつぶし、時折タバコを取り出し一服するが、靴でもみ消した後、引き返して吸い残しを拾い、箱に戻すのだ。保が自殺した。通夜にきた近所の主婦はヒソヒソと「半年も前にリストラされていたのですってよ」「誰も気づかなかったのかしら」。小耳に挟んだ父親は彼女らの前に立ちはだかり「私は徹底的に戦いますよ。個人の尊厳を冒涜し、権利を侵害するあなたたちの言辞に対して断固、戦います」主婦はポカン。ピントがずれているわ、この人って感じ。一事が万事、彼の発想は「他人が悪い」「レベルが低い」「俺が正しい。家族は俺に従っていれば間違いない」▼長男と嫁と、その両親を、父親は行きつけの中華料理店に連れて行った。店員にクレームをつけた。「俺は20年もこの店に通っているのだ。なんだ、この料理は」「すみません、取り替えさせていただきます」「それですむ問題か」。何ですむ問題なのか本人もわかっていない。嫁は大きなお腹を抱え俯いたきり、彼女の両親は目のやり場も口を挟む隙もない。長男も同じ。次男の死刑が確定して、普段から嫌われ者だった葛城清の家に「人殺し」「死刑囚」と赤や黒のペンキで落書きが大書された。清は黙々とペンキで上塗りする。馴染みのスナックに行くと常連客は通夜の席のように黙りこくって視線を合わさない。「俺が何をしたっていうんだ。俺だって被害者なんだよ」。一言で言えば彼は「藪枯らし」なのだ。そこにいるだけで周囲を枯らしてしまう。本人は自分の言動が正義であり、他者は劣悪であると信じ頭から押さえつけ厳しく批判するだけ。妻や息子がまともな感性の人たちであったことが悲劇を大きくした。神経もおかしくなりますよ。

 

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