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特集「神も仏もない映画」

2021年2月23日

特集「神も仏もない映画5」② 
葛城事件(下)(2016年 社会派映画)

監督 赤堀雅秋

出演 三浦友和/南果歩/若葉竜也/新井浩文/田中麗奈

シネマ365日 No.3485

自分の穴の中で 

特集「神も仏もない映画5」

次男の稔と妻の伸子が家を出て行った。父・清は長男・保が探し歩いていることをいたわり、「探偵、雇ってもいいのだぞ」というが、リストラされて時間の有り余っている保は自分で探し出す。二階建ての小さなアパートの一室だった。家具は卓袱台一つ。保が入って行った時、母子はそこでコンビニ弁当を食べていた。伸子は料理をしなくなっていた。完全にウツ状態だ。でも保を見て笑顔で迎え、稔もあれこれ話を交わす。保はリストラのことを口にせず、久しぶりに会った母親と弟に表情は明るい。このシーンが心に残る。父親がいないと家族はかくも笑顔で楽しそうに会話を交わすのだ。「保、カップ麺、食べるかい」「母さん、何やってんだよ。父さんが来るよ。早く逃げなよ」「母さん、働いているのだよ。パートだけどね。あの家にいたらできなかった。稔もハローワーク、行ったものね」それだけでも進歩なのだ▼「最後の晩餐に何、食べたい?」と母親。「わかんない」と稔。「わかんないはずないだろう」兄が促すと「うな重」「俺はトンカツだ」「いいね、トンカツ」と母。3人は卓を囲む。コンビニ弁当だろうとカップ麺だろうと、笑いながら食べるのは何日、何ヶ月、いや何年ぶりかもしれなかった。そこへ父親が来る。母子は凍りつく。父親は稔を殴り、首を絞める。母親はすがりつき「家に戻るからやめて。あの家に戻るから」。結局こうなるのだ。稔はポツン、「別に俺は、死んでもよかったのだけど」。死刑執行が決まった稔に獄中結婚した女性、順子(田中麗奈)が父親の前に現れる。「私は死刑廃止論者です。死刑は絶望の証です。彼には私の助けが必要です。彼は自分を変えてくれる人に出会っていなかっただけで、私が彼を変えます」。さすがの葛城清でさえ「正気か」と疑う女性である。面会に来た順子を扱う稔の態度は父親のそれ、そっくりだ。順子が持ってきた差し入れはワッフルだった。「できれば現金で頼むわ。快適に過ごそうと思えば、月6万は必要なんだ。差し入れは甘いものでなく、しょっぱいものね。おかきとかせんべいとか。缶コーヒーは甘いのがいい」そしていきなり「ちゃんと覚えとけ!」怒鳴りあげる。この女性を登場させる意味、何かあったのか、今でもよくわからない▼稔は通販で大型のサバイバルナイフを購入した。地下鉄の通路ですれ違う人を無差別に殺傷していく。現場は修羅場のはずだが、通行人は遠巻きに稔と被害者を見るだけで、止めに入るわけでもないし、通報するわけでもない。安全距離を保ち、見物しているようにも見えた。これも怖い。死刑は執行された。伸子は精神病院に収容された、保は自殺だ。父親は稔が死刑になって「これで稔との関係はおしまいか」と順子に確かめ「今度は俺の家族になってくれ。俺が3人殺したら俺と結婚してくれるか」と彼女を押し倒す。狂気の沙汰もここまでだ。父親は庭に出てみかんの木にコードをかけ首を吊るが枝がおれて落ちた。その木は家を買ったとき、息子たちの成長を願って植えたものだ。清はヨタヨタと部屋に戻り、食べ残しの即席ラーメンをすすった。彼の金物屋は細長いうなぎの寝床のような店だ。狭い通路を挟んで、天井まで商品が積み上がっている。清がいつも座る突き当たりのレジからは、店の出口が小さく見える。彼は自分の穴の中でいつもこの小さな出口を見ていたのだ…。

 

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