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特集「神も仏もない映画」

2021年2月24日

特集「神も仏もない映画5」③ 
ルース・エドガー(2019年 社会派映画)

監督 ジュリアス・オナー

出演 ナオミ・ワッツ/ティム・ロス/オクタヴィア・スペンサー/ケルヴィン・ハリソン・Jr.

シネマ365日 No.3486

危険と破滅への序章 

特集「神も仏もない映画5」

主人公ルース・エドガー(ケルヴィン・ハリソン・Jr.)の二面性を知る人物がふたりいます。一人は高校でルースを教えるウィルソン教師(オクタヴィア・スペンサー)、もう一人は母親エイミー(ナオミ・ワッツ)です。オバマの再来と嘱望されるルースは戦乱のアフリカから7歳の時、養子としてエドガー家に引き取られた。子供ながら兵士として戦線にいたルースは戦争の後遺症がトラウマとなり、エイミーと夫ピーター(ティム・ロス)は社会復帰するためのケアに相当の代償を払い、甲斐あってルースは学業優秀、スピーチも卓抜、陸上競技のエースとして抜きんでた存在となった。が、ウィルソンには懸念がある。彼の提出したレポートには「暴力も解決の方法である」とあったからだ。ウィルソンは黒人だ。黒人には白人にわからない抑圧がある。差別されないために常に模範的な存在でなければならない。隙をつかれるミスを未然に防ぐためにも、規範となる行動を日々取り続ける。人が彼女を厳しい教師というのも、自分に課してきたプレッシャーのゆえだ▼ルースにも鬱積があるのではないか、レポートにある暴力志向が内在しているのではないかと彼女は危惧する。証拠はない。ルースは模範生徒である。そうであればあるだけ、余人に悟られない何かを秘めているように、黒人同士の感覚としてウィルソンには感じられるのだ。母親もまたあまりによくできる息子の行動が感じられる。スピーチは感動的であったが、よくできたテキストみたいで生の肉声ではない。17歳にしては整いすぎている。もう少し、ストレートな自分をわかってもらうようにすればと、アドバイスする。ルースは素直に受け入れる。ウィルソンから「暴力への志向」を指摘された両親は不快を覚える。特にエイミーは、自分が息子を懸念するのはいいが、他人が同じことを言うと不愉快になる家族特有の心理が働く。しかしウィルソンの忠告によってエイミーとピーターは息子への疑惑が生じた。疑惑は膨らみ、同時にルースの周辺に、今まで知らなかった彼の一面が浮かびあがる事件が生じる▼犯人がだれという事件ではない。だれもいない夜間の校舎で、ウィルソンのデスクで違法物の花火が爆発する。花火はルースのロッカーにあったものだ。陸上部の部員がフリーで使うロッカーだから、だれが入れたのか知らないと、ルースは落ち着いていた。彼はウィルソンが嫌いだ。悲劇を乗り越えた理想の黒人であると自分を見なしているというのである。両親の疑惑は息子との関係をギクシャクさせる。ステファニーという同じ学校の女生徒が居て、同級生から性的暴行を受け、ルースが助けてくれたことがきっかけで付き合っていたが別れたとエイミーに話す。エイミーは夫と息子のことを相談したいが、ピーターは深く関わりたくなくて話をそらす。ウィルソンは自宅の落書きはルースによるものだと校長に話し、ステファニーがルースにレイプされたと言っていると伝える。ことの真偽を質す場に来るはずだったステファニーは姿をくらまし、事情はウィルソンに不利になる。さらに彼女の精神を病んだ妹が突如学校に来て裸になる騒動を起こし、ウィルソンは解雇。結果的にルースの居心地よい状況になる。ルースは森の中の隠れ家でステファニーと会っていた。心配したエイミーが探しに出てふたりのセックスを目撃し、彼らはウィルソンを追い出すため共謀したのではないかと疑う。スピーチ発表会でルースは両親とアメリカを賛美し出席した関係者を感動させる。エイミーの表情だけは暗かった。この映画が突きつけた問題に解決はない。ないが、ルースという前途洋々の青年の前に待ち受けているのは太陽のような成功ではなく、人を欺く術とそれによる破滅ではないかという設定は充分に感じられる。息子の不気味な気味悪さに怯えるナオミ・ワッツが、その予兆を表しています。ティム・ロスとの夫婦役はミヒャエル・ハネケの「ファニーゲームU.S.A」以来の共演。どっちもピリ辛映画ですが、本作は2人共殺されなくてよかったですね。

 

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