女を楽しくするニュースサイト「ウーマンライフ WEB 版」

  • facebook
  • twitter
  • line
  • rss

特集「ベストコレクション」

2021年3月2日

特集「春は弥生のベストコレクション」② 
ジョジョ・ラビット(下)(2020年 ヒューマン映画)

監督 タイカ・ワイティティ

出演 ローマン・グリフィン・デイヴィス/トーマシン・マッケンジー/スカーレット・ヨハンソン/タイカ・ワイティティ/サム・ロックウェル

シネマ365日 No.3492

街へ出た魔術師 

特集「春は弥生のベストコレクション」

ジョジョは自分から隠し部屋のエルサと話すようになります。「どうしたの。ユダヤ人の話をする? 昔ユダヤ人は洞窟に住んでいた。そこに住む不思議な生き物たちには共通点があった。芸術への愛よ。やがて魔術を身につけた彼らは洞窟を出て街に移り住んだ。私たちの言語は鳥のさえずりのよう。互いの心が読める」「ドイツ人の心も?」「いいえ、バカすぎて無理」へなへなになったジョジョにアドルフが嫌味を言いに姿を現わす。「ずいぶん仲がいいな。忠告してやる。彼女がお前の心を誘惑しようとしたらその逆に進め。心を支配されてはならん」。洗脳の名人アドルフが言うのだから笑っちゃう。母親がエルサの隠し部屋にワインを持って入ってきた。しゃがんで頭が天井につくような狭い空間で「あなたはインゲに似ているわ。娘が大人になるのを見たかった。代わりにあなたを見守るわ」「大人の女って何?」「そうやってワインを飲むこと。恐れず人を信じること」「どうやって信じられるとわかるの」「ただ信じるの」。屁理屈抜きの脚本が素敵▼もう一人魅力的な人物がいます。キャプテンKです。隠れユダヤ人狩りのナチスが「不法侵入者」取り調べで家に来て「他人の家に入り込み勝手にものを食べてベッドで寝る輩だ」。大胆にもジョジョの姉だと言って現れたエルサに身分証の提示を求める。エルサが出した身分証はインゲのものだ。顔がそっくりだった。同席したKが「生年月日を言え」「それは14歳の時。誕生日は5月1日」「合っている。新しいのと取り替えるように」とK。しかし身分証の誕生日は5月7日だった。間違っていることをKは黙っていたのだ。ヒトラー・ユーゲントの訓練は猛烈な詰め込み教育だ。少年少女を解散させ「やれやれ」とKは嘆息する。彼は知っていた。「この戦争はドイツの負けだ。今は順調なふりをしているが」。白紙の彼らにナチスの信念を植え付け、無謀な方向に進ませる国家のやり方への慨嘆だ▼連合軍が侵攻してナチス高官を検挙した。ボロボロの軍服のKもいた。「まるで集団ヒステリーだ。パーティーは終わった。君のお母さんはいい人だった。家に帰れ。姉さんの世話をするのだ」そう言ったKは、アメリカ軍の前でジョジョに唾を吐きかけ「ユダヤ人め、失せろ」と罵倒する。米兵はジョジョを逃しKを射殺した。家に戻ったジョジョにアドルフが詰め寄った。「あの女とどうするのだ。一緒に出て行く? どうせ捨てられるぞ。ユダヤ女は忘れろ」「くたばれ、ヒトラー」ジョジョはアドルフを窓の外に突き落とす。幻想は消えた。隠れ部屋の前でジョジョはエルサに、フィアンセのネイサンからと偽ってニセ手紙を読む。「親愛なエルサ。僕とジョジョで脱出計画を立てた。そこを出たらパリで会おう」エルサの声「ネイサンは死んだわ。去年、結核で。ジョジョ、やさしくしてくれてありがとう」「エルサ、実は君を愛している」「私も愛しているわ。弟として」「それでいいよ」▼ネイサンがエルサを口説いたリルケの詩で締めましょう。「すべてを経験せよ。美も恐怖も。生き続けよ。絶望が最後ではない」。リルケってヤなやつね。「不完全なふたり」ではヴァレリ・ブルーニ=テデスキが「ロダン論」を、「天使にラブ・ソングを2」ではウーピー・ゴールドバーグが「若き詩人への手紙」を引用していました。リルケの母はユダヤ人。彼もまた芸術への愛を受け継ぎ、洞窟から街へ出た魔術師の1人だったのでしょう。

 

あなたにオススメ