女を楽しくするニュースサイト「ウーマンライフ WEB 版」

  • facebook
  • twitter
  • line
  • rss

特集「ベストコレクション」

2021年3月3日

特集「春は弥生のベストコレクション」③ 
透明人間(2020年 サスペンス映画)

監督 リー・ワネル

出演 エリザベス・モス/オリヴァー・ジャクソン=コーエン

シネマ365日 No.3493

透明人間の時代? 

特集「春は弥生のベストコレクション」

原案はH・G・ウェルズの「透明人間」です。同じ原案でポール・バーホーベンが映画化したのが「インビジブル」。同作は天才科学者が人体を透明化させることに成功、人の目に見えないことを利用して、不法侵入やらレイプやら、言語道断の犯行を重ねる。原作でも優劣思想が激化し悪の限りをつくす、これまた天才として描かれていました。二作に共通するのは見えなければ何をしたっていいだろうというアンチ・モラルです。匿名で責任を問われないなら何を書いたっていいだろうという、今時の「書き込み」と心理が似ています。自分を隠して他人を苦しめる点では、現代は半透明人間の時代でしょうか。本作のヒロイン、セシリア(エリザベス・モス)は、夫エイドリアン(オリヴァー・ジャクソン=コーエン)の暴力支配から逃れるため家出する。夫は一流の光化学研究者だ▼妻は夫の自殺を新聞報道で知るが信じない。透明になることくらい彼の能力からすれば開発できないことではない、すべてを完璧に思い通りする人で「私に対してもそうだった。容姿、着るもの、食べる物、外出する時もコントロール、ついには考えることまで支配しようとし、私の考えが気にいらないと暴力を振るった」家出したくもなるわね。透明になるプロセスは比較的あっさり描かれ、虐待男の本性を誰も信じないゆえ、孤独な戦いを強いられたヒロインが、恐れるのをやめ彼と同じ手口でやっつけるまでのバトルに重点が置かれています。リー・ワネル監督は「一人の女性が自分の強さを見つける物語だ。飲むと透明になる薬ではなく、別の方法でどうすれば透明になれるかを探った。軍事技術面では兵士たちが身を隠す方法が研究されている」と述べ、それを着ると見えなくなる「透明スーツ」を発案しました。黒いスーツに無数の小さなカメラが吸盤のようについていて、その作用は具体的に示されませんがとにかく人からは透明に見える。これまでの透明人間は実験の副作用で脳がおかしくなり、人格が破壊され凶悪な犯行に及ぶというものでしたが、それよりだいぶ今風な装置になりました▼夫の自殺を妻が頑として拒否するのは、彼の邪悪な本性を知っているからです。完璧な支配に憧れ自分を透明にしてアドバンテージを保つなど優劣思想の最たるものです。そんな人間が自殺などするはずがない。セシリアは妹も殺され、親友の警官であるジェームズも取り上げてくれず、彼の娘にエイドリアンは魔手を伸ばし「僕は君を離さない。君の代わりにあの娘を狙うよ」と、イジメの快楽に陶酔する。セシリアは精神病院にまで入れられ、心身ともボコボコにされながら、単純な応戦(ペンキをぶっかけたり、絨毯のへこみでそこにいるのを見分けたり)で危機を逃れ、夫は妻が手ごわくなってきたのを知り、自分の弟を「透明人間」にし立て、自分は被害者を装って事件の終着を図りますが、妻だけは(夫の芝居)だと見抜いており、一対一の対決となります▼夫の家(元自分も住んでいた)屋敷に来た彼女に、夫は豪勢なディナーを用意して待つ。トイレにと、妻は席を外してしばし。やおら夫は首を反らし、手にしたナイフが喉を掻き切る。トイレから出てきたセシリアは絶叫する。彼女が装着していた隠しマイクによって、室内の状況を外の車で把握していたジェームズは突入する。室内カメラにはエイドリアンが自分の喉を斬るシーンしか映っていない。遺体を収容するジェームズは、セシリアのバッグに黒いスーツが入っているのを見る。それを着て透明になった彼女の犯行だと確信するが、何も言わなかった。誰が信じるだろう。セシリアは手に入れた透明スーツをどうするのか。人から見えない快楽はますます現代の透明人間を作っています。こんな世情を反映してか本作は700万ドルの制作費で1億2600万ドルの興収を上げるスマッシュ・ヒットとなり、実力派エリザベス・モス(「ニュースの真相」「ハイ・ライズ」「アス」など)が、ヨレヨレの女から立ち直る好演が注目されました。「透明人間2」アリかもね。

 

あなたにオススメ