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枝雀の時間

2021年4月9日

特集「枝雀の時間」⑨
「仔猫」枝雀のフェミニズム(上)

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出演 桂枝雀

シネマ365日 No.3530

女人崇拝

特集「枝雀の時間」

「なんでかわからんのですが」と、枝雀は自分の噺の語り口のような調子で「皿屋敷」の解説をこう書き出している(「枝雀の落語案内」)。「女の人というものは男なぞとちがって結構なもんや、という考え方で大きくなってきました。と言いましてもうちの母親や姉が特に崇高な女人であったということもなかったのです。自分の理解できないものは、とりあえず結構なもん、とする性向があったんでございましょう」。枝雀はロマンチストだった。「天の夕顔」を読み、感激して吾妻ひな子師匠に読ませたところ「世の中はこの小説みたいにありたいけど、こんなもんとちがうがな」と言われ「いや、そんなこと、おまへん」ムキになって反論した。女人崇拝は「嫁ハンをもろてから変わりました。女性を低く見るということではありません。身近に見ていますと、特に偉いこともないし、劣っているわけでもない。男と一緒やないかーというごく当たり前のことに31になって初めて気がついたのであります」▼「皿屋敷」のお菊が顧客に「なんで皿の数、ぎょうさんよんだんや、いうて責められたとき、ポンポンポンポン言いなはんな」と逆襲する。「そこでも女というもんは一皮むけば怖いものや、とうのではなく、言い方に可愛さを残して、精一杯逆襲しても、きつくない女のやさしさを残したいのです」そう演じたという。こんなベースがあって「仔猫」を聴くと枝雀の女性観が一層よくわかる。「おなべ」は口入屋の紹介で船場の商家へ勤めに来た。不器量でひどい田舎なまりで、男たちはどうやって断ろうかとごちゃごちゃ言っている。騒ぎを聞いて御寮人さんが現れ、おなべの対応が気にいり「奥のことは男子衆(おとこし)の口出すことやあらしません」と口を封じ、採用する。「人は見かけだけで判断するものではございません。このおなべという子がそれは、それは、気のよい働き者。裏表なく、人が見ている、見ていないにかかわりなし。自分から用をこしらえ、どんどん片付け、片付けました、という顔すらしない。おなべが来てから奥のほうはもとより、丁稚、小者に至るまで襟垢のついたものは着たことがない。気はやさしくて力持ち。器量自慢の大店の娘とおなべのどっちを嫁にするという評定では「別嬪を鼻からぶら下げたいやらしい女より、わしはうちのおなべを嫁にする」という男子衆も現れた▼その席で一人が声をひそめた。おなべに奇怪な振る舞いがある。真夜中に店を抜け出し、町を出歩き、帰ってくると鏡の両脇にろうそくを立て、映った自分の顔の、血に濡れた口元を見てニタリ。髪はザンバラ、耳は立ち、目がピカッ。そして「へ、へ、へ」。こんな噂を放っておくと店の暖簾にもかかわりかねない、と旦那はおなべの身上調査を番頭に命じる。番頭は役目とはいえ、気が重い。おなべは働き者で気立てがよく、誰からも好かれている。何があったにせよ、クビにしたくない。仕方なく、旦那立ち会のもとに、おなべが御寮人さんのお伴で歌舞伎を見物に行った留守中、部屋を検分することになった。そこで見たものが…ミステリーとホラーを備えた本作に、枝雀の朴訥な女人崇拝が綾をなし、ただの怪奇譚にさせていません。

 

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