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枝雀の時間

2021年4月11日

特集「枝雀の時間」⑪
「猫の忠信」(上)枝雀のリアリズム

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出演 桂枝雀

シネマ365日 No.3532

あんた、ウソつくの下手

特集「枝雀の時間」

浄瑠璃のお師匠さんはてっきり自分を好いてくれていると自惚れていた次郎吉が、彼女には常吉という男がいるとわかる。面白くない。お師匠さんと常吉がいちゃついている現場を目撃した次郎吉は、その足で常吉の家に行き、人一倍悋気の強い女房おとわに、亭主の浮気をばらし、夫婦間を揉ませてやろうと考えた。家に入るとおとわが針仕事をしている。羽織を縫っているのだ。枝雀が羽織に見立てた手ぬぐいに、針をくいくいと進め、糸をピンと伸ばし歯で切る。ここまでの所作で客席から声にならない感嘆が漏れる。おとわは亭主に心底惚れている女房である。次郎吉が常吉の浮気をほのめかす。「はあ、そんなことのひとつやふたつ、なんでもないのやけども(早や涙声)、わたいがかわいそうやと思うたら、教えてやっておくんなはれ。相手はどなただんねん」「浄瑠璃のお師匠はんや」「クゥ〜ッ」▼おとわ悶える。「いつからだんねん」「2人はとにかく温い造りを製造してんねん」「なんだんねん、それ」枝雀には珍しいエロチックな噺だ。「落ち着いて聞きや。お師匠さんがお醤油の皿にワサビ溶くでしょう。お造りをつけて、常やんの口へポイと放り込む。常やんが噛むような噛まんようなレロレロして、お師匠さんの口にツルッと返す。お師匠さんがまたそれを…」おとわ「カーッ、クゥーッ、イーン、イーン」枝雀のたうつ。次郎吉「今の今、この目で見てきたのや」「…はん?」おとわ、いや枝雀はしばし沈黙。視線だけを意味ありげに走らす。おとわは放り投げた羽織を取り上げ静かな声で「ああ、よかった。羽織一枚ワヤにするとこやった」。縫い針に鬢の油をつけ、落ち着きはらって針仕事を続ける。ちらっと目をあげ「次郎吉はん。用がないねやったらぼちぼちいんでやったらどうえ?」。次郎吉ポカン。「そら、私はヤキモチ焼きだす。笑うてやっとくなはれ。仕方ないがな、うちの人、好きやさかい。あんた上手にわたいをカーッとさせようとしたのやろけど、ハハハ、あんた嘘つくのヘタ。そんなことできるわけないやないか。うちの人、奥で昼寝してますねん。ハハ、ハア」枝雀のリアリズムがおとわの仕草に凝縮する。運針の針運びは夫人のレクチャーを受けた。それにしてもうまい。喋らない場面で客席を(むうん…)うならせている▼次郎吉は常吉が二人いる謎が解けない。この家とお師匠さんの家に掘った秘密の穴があるに違いない、調べるのがいいとおとわに進言する。この次郎吉、夫婦に揉め事を起こさせようという、いけ好かない野郎です。常吉が襖を開けて姿を見せ、妙な話があったものだ、この間から「人に体を借りられているような、人の体を借りているような、おかしな具合じゃと思うておったが、こら、おそらく狐狸妖怪の仕業に違いない」。そう断じて3人でお師匠さんの家に出かけた。板戸の穴から覗くと、まさしく常吉がそこにいるのだ。ミステリーとホラーの緊張が盛り上がります。常吉が次郎吉に策を授けた。「中に入って一杯飲んで返せ。受け取ろうとして奴が手を伸ばした時にグッと握って探れ。指が5本に分かれていたらいいが、丸かったら油断するな。このキセルであいつの面体をふたつ、みっつ、打ちすえてわしを呼べ」さてこの常吉の正体は?

 

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