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特集「花咲き満ちる4月のベストコレクション」

2021年4月23日

特集「花咲き満ちる4月のベストコレクション」⑩
エリザのために(上)(2017年 社会派映画)

監督 クリスティアン・ムンジウ

出演 アドリアン・ティティエ/マリア=ヴィクトリア・ドラグシ

シネマ365日 No.3544

父の思い、切なく熱く

特集「花咲き満ちる4月のベストコレクション」

具体的に前景化されていませんが、ルーマニアの社会情勢を大雑把にでもアタマにいれておくと、主人公ロメオの苦しみがよりよくわかります。ロメオは50歳の外科医。娘エリザ(マリア=ヴィクトリア・ドラクシ)は最終試験の成績次第でケンブリッジ大学に留学できる。ロメオはなんとしてでも合格させたい。エリザは試験の直前、校門のすぐそばで暴漢に襲われた。ショックで試験に影響する。パパは学校に試験の延期をかけあうが「規則は規則」で跳ね返される。当日の答案に「2問は時間切れで出来なかった」とエルザ。パパが家に車で連れて帰ろうとするとボーイフレンドのマリウスに送ってもらうという。友人である警察署長に相談すると副市長のブライを紹介した。肝臓のドナーを待っている。順番を早めるよう取り計らってほしいというのだ。ブライは採点委員会の担当者を教え、その担当者は、答案用紙に印をつけてエルザのそれだとわかるようにしたら採点を考慮する、ところまでこぎつけた▼妻のマグダは反対だった。「人生の最初から裏道を行かせるなんて」「正しい道を選んだ君は望んでもいない図書館員をやらされている。私のすることにいつもケチばかりつけるが、エリザのためなら俺は信念も捨てる」。彼ら夫婦は「1991年民主化に期待して帰国したが実情は変わらなかった。自分たちの力で山は動くと信じたが実現しなかった。後悔はしていない。でもエルザには別の道を歩んでほしい」。もしエルザたちの世代で「この国を変えられるなら、残れと言うよ。でもそうは思えない」パパは祖国に絶望している。ルーマニアの歴史は大国に翻弄されてきた。1965年チャウシェスクが共産党書記長となり独裁化を進めた。天然資源に恵まれていたこともあり、ソ連の影響下を離れ独立路線を取り、中国と国交を結ぶ、アメリカからニクソン大統領を招く、さらにはIMFに加盟し西側銀行からの融資を受け工業化を進め、東欧では異色の存在となりました。オイルショックにより受けた財政の破綻を回復させたのは「赤い闇スターリンの冷たい大地で」にもあった穀物の飢餓輸出(国民を飢えさせて小麦を輸出し外資を稼いだ)でした。国民の不満と窮乏は頂点に達し、1989年独裁者チャウシェスクは殺されます。パパが「民主化を期待して帰国した」というのはこの直後でしょう。でも国は変わらなかった▼クリスティアン・ムンジウ監督の「4ケ月、3週と2日」でも、独裁政権下の社会で中絶を認められない友人のために、悪戦苦闘するヒロインがいました。とにかく暗い。「この国に残って何がある」と、娘の未来を海外、しかもケンブリッジという名門大学に託そうとする父親の気持ちは切なく熱い。でもそれと不正とは別の問題ですが。

 

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