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特集「ディーバ(大女優)」

2021年5月4日

特集「ディーバ18」原節子④
お嬢さん乾杯!(下)(1949年 コメディ映画)

監督 木下恵介

出演 原節子/佐野周二/佐田啓二

シネマ365日 No.3555

極妻の系譜

特集「ディーバ18」

「わたくし、何もかも正直に申し上げようと思って、伺ったのです。わたくしには婚約者がありましたこと、ご存知でいらっしゃいますね」圭三「死んじゃったのですってね」「いい方でした。芸大の秀才でした。お気を悪くなさらないでくださいまし。何もかもありのまま、お話申し上げるのでございますから、お話した上であなたのお気持ち通りなさってください。わたくし、あの方に全ての愛情を捧げ尽くしてしまいました。胸の中に燃えていた火が吹き消されて、虚しい煙がくすぶっているだけなのです。私はそんな女なのです。でもわたくし、あなたのご親切に喜んで結婚しようと思った気持ちは嘘でも偽りでもございません。心からそう思ったのでございます。結婚の条件に

いろいろとお金のことがまつわりついて、わたくしの気持ちが醜いようにお思いかもしれませんけど、それはわたくしが落ちぶれて、わたくしの身に降りかかってきた、やむをえぬ事情なのです。決してわたくしの心から割り出したことではございません。もしそのためにあなたがお苦しみに、あるいはご不満にお感じになったなら、どうぞ今度のことはお断りになってください」。きっぱりしたケジメのつけ方は、言葉遣いこそちがえ、極妻の系譜である▼圭三圧倒されるが体勢を立て直す。「そうじゃない、僕はあなたから愛されたいのだ。あなたを抱きしめたいと思ってもあなたは何の感激も、興奮もない。世間一般の人のように微笑しているだけで、僕は苦しくて、苦しくて…」圭三は身悶えする。そしてこんな手紙が節子に届く。「僕たちはやはり住む世界が違うのでしょう。屋敷の抵当は外す手続きをすませました」。なじみのバーのマダムの店に来た圭三は「結婚、やめたよ。十日ばかり田舎に帰る」。トランクを提げ「3時の急行に乗る」と言って出て行く。入れ違いに泰子が来る。マダムはやけ酒煽って泰子にからむ。このシーンの村瀬幸子がいい。「どこが気に入らないのよ。男は心意気だよ。あんな男、どこにもいないよ」「あの、わたくし…」「じれったいお嬢さんだね」「圭三さんを愛しております」「ケッ。愛していますなんて、そんなお上品なこと言って。そういう時は惚れているって言ってやりなよ!」。圭三の弟、五郎が来た。若き日の佐田啓二だ。泰子の真意を知って、まだ間に合う、と駅に向かわせる。ドアを出た泰子はもう一度首を出し、マダムに「惚れております」と言って飛び出していく▼嫌味も臭みもない映画だが、原節子がどうかする拍子の、圭三を見る複雑な視線や、煮え切らなくなった男に引導を渡すシーンで、思いつめた暗い表情をする。あるいは「お腹、空いた〜」で顔が一変する鮮やかな変化。煮ても焼いても食えない女優だ。本作はロマンティック・コメディの快作ではあるが、影を作る原の深みが、ともすると「颱風圏の女」で書いた「14歳の肖像」を思い出させ、黒澤明が「羅生門」に原節子のキャスティングを考えていたことは、実現すればたぶん、いい線いったであろう。京マチ子も素晴らしかったが、原の暗部を引き出す映画がもっと邦画にあれば、と残念にも思える。

 

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