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家族の修羅場

2021年6月2日

特集「家族の修羅場」②
ミュージックボックス(下)(1990年 社会派映画)

監督 コスタ=ガヴラス

出演 ジェシカ・ラング/アーミン・ミューラー・スタール/フレデリック・フォレスト

シネマ365日 No.3584

重い償い

アンの引っかかることがもうひとつあった。彼女の助手、ジョージーンがラズロの預金口座から定期的に1000ドルがゾルダンという男に振り込まれ、彼が事故死してからピタリと止んでいることを教えた。ブダペストに飛ぶアンを空港まで送ったジョージーンは「ゾルダンの姉、マダム・ゾルダンがこの住所にいる」とメモを渡した。アンは法廷で何度も出てきた橋、ランシッド橋で車をおり、ドナウ河畔に立った。意を決しマダム・ゾルダンを訪ねた。穏やかにアンを迎えた婦人は「弟はアメリカに憧れていた。弟は成功したのかしら? 遺品としてカメラと切符の入った財布が送られてきました。これです」「質札ですね。質は何かしら?」「請け出してもらえないでしょうか。形見が少ないので」。アンは快く承知する。部屋を見せてもらった。「弟は警官でした。昔の私と弟です」その写真にいたのは左頬に大きな傷痕のある男、法廷で何度も証言に上がった虐殺者だった▼映画はミステリーの局面に入ります。帰国すると新聞は大きく「ラズロの有罪立証不可能」と書き立てていた。アンは質屋に行く。長い間質種になっていたのは木箱のオルゴールだった。アンは帰りの車中でオルゴールを開ける。メロディとともに数枚の写真が滑り出てきた。銃を女性の頭に突きつけ薄笑いを浮かべている男はまぎれもない父ラズロだった。ラズロはこの写真をネタにゾルダンから揺すられていたのだ。元義父の家に預けている息子マイクを迎えに行った。義父は記者団を前に「この虚構の事件は終わった」と答えていた。マイクを遊ばせていた父を呼び「証拠の写真が出てきたのよ。パパだったわ。父親の目の前で息子を殺し、女性を暴行し川に捨てたのはパパだったのよ。ゾルダンの姉さんに会ったわ」「どうした。アカに洗脳されたのか」「二度とパパに会いたくない。パパは死んだ。真実を話したらどう?」「お前が誤解しているだけだ。誰も信じないぞ」…アンはタイプを打っている。「ジャック・バリー検事。ドナウ河畔に行ってみました」そして写真を同封し発送した。新聞は書く「司法省証拠写真を公表」。一事不再理ということはある。しかしアンはジュリストとしての良心に従ったのだ▼「ブルースカイ」でもそうだった。壁に立ち向かう女というイメージがジェシカ・ラングにはつきまとう。「アメリカン・ホラー・ストーリー」では他の俳優を圧倒する怪演で、彼女がシリーズから退場した途端、面白くなくなり再登板になった。心の内に動揺があるのかないのか、疑わしそうに鋭い目をすぼめ証人席に近づく無表情な弁護士アン。父を愛しながらも弁護士の本能が「真実ではない」とささやく。そのジレンマが彼女をドナウ河畔に立たせた。バリー検事はラズロ有罪を確信している。彼は彼でハンガリーにおけるユダヤ人大量虐殺を心底憎んでいたのだ。フレデリック・フォレストは「ハメット」で主役ハメットを演じた人。次々証人を繰り出すが、アンの防御の前に一時は屈するものの、最後は人間として許されるべきでない事件であるという基本にアンを立ち返らせる。もし自分の父親ならどうするかという立場で考えると即答できない。でもアンは正解だったとしか言えません。重い償いです。

 

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