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特集「しっとりと水無月やよし6月のベストコレクション」

2021年6月18日

特集「しっとりと水無月やよし6月のベストコレクション」⑩
クロッシング(2010年 社会派映画)

監督 アントワーン・フークア

出演 リチャード・ギア/イーサン・ホーク/ドン・チーゲル/ウェズリー・スナイプス

シネマ365日 No.3601

苦しみとなった愛

特集「しっとりと水無月やよし6月のベストコレクション」

犯罪多発地区ブルックリン。3人の刑事がいる。退職直前のベテラン警官エディ(リチャード・ギア)。刑事の薄給で妻と子供2人、さらに双子が産まれる予定のサル(イーサン・ホーク)。長期の潜入捜査に疲れ妻に離婚を切り出されたタンゴ(ドン・チーゲル)。エディは夢にうなされ目を覚ますとサイドテーブルのウイスキーに手を伸ばす。アディクトだ。署内では昼行灯みたいに扱われ、万事事なかれ主義を通してきた。7日後に迫った定年退職。自分にフタをして生きてきた鬱屈がいつ爆発するかしれない危険を秘めている。タンゴはギャングに混じり麻薬取引の現場にいる。プレッシャーから早く逃れ「デスク、ネクタイ、スーツの仕事」に就きたい。上司に昇進を掛け合うが先延ばしばかり。出所したばかりのギャングのボス、キャズ(ウェズリー・スナイプス)がオトリ捜査の対象になった。タンゴはキャズの男気や統率力に惹かれている。キャズが槍玉に上がったのは失態続きの警察への、世間の矛先をかわすための大物狙いだった▼三者三様の立場でストーリーが展開する。サルが危険な麻薬捜査官になったのは多額の現金がやり取りする現場から金を盗むためだ。劣悪な住宅の壁のカビが肺に入り、妻は喘息を悪化させ絶えず咳き込む。医者は「奥さんもお腹の双子も危険」というからすぐにでも引っ越したい。その頭金をかき集めているのだ。エディは新人の教育係を振り当てられた。冗談じゃない。「私が適任と思えませんが」とやんわり断るが「年齢順だから仕方ない」。配属された新人は元海兵隊のカチカチで定年間近のサルを馬鹿にする。サルはなじみの娼婦の家に行き「新入りのガキがクソな野郎で、なんでもできる、みたいな顔、しやがって。世の中を知らんくせに」。元海兵隊員はエディと折り合いが悪く外れ、代わりの新人が来た。パトロール中、店で店主と若い黒人男性が口論し、2人は止めに入るが新人が誤発砲し黒人男性が後遺症を負う怪我をする。「君に責任はない」という内部審査の判断にエディは「私の責任です」と繰り返し、上司の耳元で「ふざけるな。俺の責任だと言ってるんだよ、クソ野郎」と毒づく。無事退職日を迎えた日、エディは密かに警察バッジだけは隠し持った▼サルは麻薬の踏み込み捜査が延期になった。そこで狙っていた金がフイだ。不動産屋は頭金のリミットが明日だと通告する。サルは突入するはずだったアジトに単独で侵入し、敵を射殺。金を持てるだけ持って出ようとするが、隠れていた子供に背後から射殺された。タンゴはキャズをオトリから助けようと「この街から逃げよう。車に乗れ」と急かすが、理由を知らないキャズは「大きな取引がある」と言って断る。押し問答をしている時、キャズは自分を裏切った手下に撃たれ死ぬ。許せん。追い詰めたタンゴはしかし、ギャングと間違えた警官に射殺された。生き残っているのはエディだけだ。行く不明で捜索願の出ていた女性を街角で見かけたエディは車で後を追う。売春宿に数人の女性が薬漬けになっていた。ふらふらの女3人を救い出した。警官ではない彼がやるには無鉄砲すぎる。パトカーがかけつけたが、洟も引っ掛けずエディは去る。実りのない警官生活に自分なりの決着をつけたかった彼が、意地で咲かせた花の暴挙である。思い残すことはあるまい▼命がけの任務、安い給料、美味しい汁は上層部だけ。別れ話を持ち出す妻。生まれてくる子供。苦しみとなった愛。擦り切れそうな疲れと心の暗闇が感情を不意打ちする。出口を見出そうと足掻く男たちのやるせなさが見事だ。

 

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