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特集 LGBTー映画にみるゲイ

2021年7月1日

特集「映画に見るゲイ14」319
燃ゆる女の肖像(上) (2020年 ゲイ映画)

監督 セリーヌ・シアマ

出演 アデル・エネル/ノエミ・メルラン

シネマ365日 No.3614

チェンバロで聴いた「夏」

ヒロイン、エロイーズ(アデル・エネル)の登場シーンが斬新だ。ここはフランス、ブルターニュの孤島。伯爵令嬢エロイーズの肖像画を描きにパリから来た画家マリアンヌ(ノエミ・メルラン)は打ち解けないエロイーズに手古摺る。母・伯爵夫人は長女が自殺し、妹娘エロイーズを結婚の後釜にしようと修道院から呼び戻したが、人生を選択できない自分にエロイーズは苛立ち、怒りを秘めて誰にも心を開こうとしない。屋敷に到着して翌日、メイドのソフィが呼びに来た。「お嬢さまが下に」。急いで降りていくと藍色のマントとフードのエロイーズが開け放った戸口から外に出ようとしている。大股で急ぎ足だ。靴音が鳴る。外は海からの風が強い。煽られフードから金髪が見えたと思うと走り出した。(ン、もう)。マリアンヌが追いかける。エロイーズが立ち止まり振り返った。セリーヌ・シアマ監督は美しさを際立たせるようにアップ。監督の手腕もさることながら、撮影のクレア・マトンの映像美が本作を洗練しています▼当時の肖像画は見合い写真の代わりです。マリアンヌの前任者はニコリともしないお嬢さまに音をあげ帰ってしまった。顔の部分が塗りつぶされたキャンバスが残っていた。だから母親はマリアンヌを画家とは教えず“散歩係”として雇ったことにしてある、娘と散歩しながら観察して絵をしあげよという。マリアンヌは自信があると引き受ける。エロイーズは海岸の砂浜に正座し水平線を見ていた。「海に入りたい」「泳ぎは?」「どうでしょう。泳いだことない」「今日は波が高い。危険です」話しながらマリアンヌはエロイーズの組み合わせた手の形を見る。屋敷に帰ると夜、スケッチを起こす。「どうでした」と聞くソフィに「難しい。一度も笑わないの」。姉の死の原因が自殺かと尋ねたマリアンヌに、ミラノで結婚することになっていたこと、相手がミラノの男性としか自分も知らない。「だから不安なの」「修道院はお好き?」「図書館も音楽も歌もありました。それにみな平等です。あなた、ご結婚は?」「一生しないかも。たぶん父の仕事を継ぎます」水平線を見たままエロイーズが言う「人生を選べる人にはわからないわ」。マリアンヌは伯爵夫人に進言する。「お嬢さまを1人で外に出してあげれば? お嬢さまは怒っているだけです」。硬い表情の下にはエロイーズの繊細な感受性が隠れている。もどかしさ、諦め、そして怒りを秘めている。しかしそうわかったとしても、それだけでは描けない。「明日は1人で外に行けます。自由です」マリアンヌはエロイーズを喜ばせようとそう言った。「ひとりなら自由? 確かめます。教会へ行き音楽を聴きたい」「オーケストラは?」「一度も。話して。どんな音楽?」「音楽は話せません」。マリアンヌは部屋にあった埃をかぶったチェンバロを弾く。「それは?」「好きな曲です。命を感じます」。興味深そうにエロイーズは並んで座り、マリアンヌの指の運びを見る。曲が途切れた「音が拾えない。続きは音楽の都、ミラノでどうぞ。ミラノは魅力的な街です」「あなたにそう言われると慰められる」。彼女が弾いた曲は「四季」の「夏」。これが幻想的な、そして美しいラストの伏線になります。

 

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