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家族の修羅場

2021年8月20日

特集「家族の修羅場2」⑨
僕たちの家に帰ろう(下)(2015年 家族映画)

監督 リー・ルイジュン

出演 タン・ロン/グオ・ソンタオ

シネマ365日 No.3664

僕たちの家はあった?

アディカーの脳裏に緑なす草原と父母と暮らしたパオが幻のように浮かんだ。父は羊の世話をし、母は乳を絞りチーズや干し肉を作った。草原に立つ白いテント。いまアディカーの目の前にあるのは草も木もない涸れた土地と荒れ地となった河の跡だ。父と母は住む家と仕事も収入もなくしたのだ。兄弟はさすがにいさかいをやめ、兄は弟の意見に譲るようになり、弟は兄が頼れる男に見えてきた。旅を続けたふたりは見覚えのある土地に来た。「ここからはすぐだ。晩ごはんは母さんの手作りが食べられる」。先を急ぐ兄弟に、高い鉄塔が何本も建っている風景が遠くに見えた。あれはなんだろう。近づくにつれ、何人もの男が作業しているのがわかった。何をしているのか尋ねると「金を掘っているのだ」と答えた。そこは川底だった。大勢の男が土をすくい、ザルで漉す作業を繰り返している。アディカーとバーデルは顔を上げたひとりが、自分たちの父親だとわかった。父と巡り会い、母のいる家に帰ることはできた。できたけれど父の後ろをついて家に帰る兄弟は言葉がない▼河西回廊は黄河の西にあるためそう呼ばれる。西安から敦煌を経てウルムチに至る細長い地域を含み、中原と西方世界を結ぶ国際通路だった。劇中、いくつもの遺跡が現れる。極彩飾の壁画、盗掘にあった洞窟内部、住人が離散した村、宮殿跡かと見まごう壮大な建築物の廃墟。打ち捨てられ、だれひとり訪れる者はなく、観光客の落書きやゴミが散乱し、鳥が騒々しく我が物顔に出入りする。かつての繁栄をとどめる物はない。この映画は中国の縮図か。兄弟の祖父は言っていた。「遊牧民にはつらい時代だ。よく繁った草原を見つけても一箇所には止まっておれない。町近くの草原は枯れかけているから河に沿って移動し、水のある場所に来ても遊牧禁止のこともある。耐えるのだ。最近では大勢の若者が家畜を売り払い農業に転向している。草原を農地に変えてあちこちに井戸を掘って。だが井戸を作りすぎ湖さえ干あがりかけている。金の採掘や町の仕事を始めた者は遊牧には戻らん」▼牧歌的な時代を惜しめば事足りる映画ではないと思う。先祖の仕事から転業を余儀なくされ、ライフスタイルが変わることは収入だけの問題ではないはずだ。人が生きてきた場所とはそこで育んだ魂の故郷でもあった。子供の教育や家族のあり方まで変えざるをえない。そんなことにおかまいなしに進むのが経済最優先なら、国家が切り落としてきたものは何か。黙々と父親のあとについて家路をたどる兄弟に、探し求める「僕たちの家」はあったのか、なかったのか。沈黙を強いられた。

 

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