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特集「ナンセンスは素敵だ」

2021年8月26日

特集「ナンセンスは素敵だ7」⑥
エマ、愛の罠 (2020年 家族映画)

監督 パブロ・ラライン

出演 マリアーナ・ディ・ジローラモ/ガエル・ガルシア・ベルナル

シネマ365日 No.3670

独自の道徳観と美学?

ヒロイン、エマ(マリアーナ・ジローラモ)の考えた“愛の罠”とは、つまりこういう企みだ。放火事件を起こした息子ポロ(養子、7歳)が施設に逆戻りした。取り返したいエマはポロの新しい引き取り手である夫婦を突き止めた。妻は弁護士で夫は消防士(バイトにバーテンをしている)。妻の名はラケル。夫はアニバル。エマは離婚訴訟のためラケルを雇う。弁護士費用が払えないから料理もする、洗濯もする、ダンスも踊る(エマはレゲトン=ストリートダンスのダンサー)と言う。ラケルは興味を持つ。エマのゴールはポロを取り返すことだから、まず養い親のラケルとアニバルを籠絡する。ラケルと深い仲になり、アニバルとも寝て妊娠する。エマの夫ガストン(ガエル・ガルシア・ベルナル)は「性病を治療しなかったために不能となり、妊娠は不可能」。ポロが通う小学校にダンス教師として採用されたエマは、授業の時間、ポロを連れて夫とともにラケル夫婦の家に行き、現在妊娠16週目で父親はアニバルであることを告げ、親が4人、子供が2人の新しい家庭を作ることを提案する、というより押し付ける▼2019年ヴェネチア国際映画祭コンペティション部門正式出品、同年トロント国際映画祭正式出品と物々しく、バイ・セクシュアルのエマが極めて不道徳かつ大胆なジェンダーレスにしてボーダーレスなヒロインであると高評価なのですけど。オープニング、火炎放射器で信号灯を焼き払うのが反社会・反道徳の象徴だと解説されているのですが、ただの、ねじくれた人生の腹いせみたいにしか見えないのだけど。それにエマは二度、三度、車や遊園地の乗り物、ゴミ箱を焼き払います。消火に駆けつける消防士が目当てでしょう。世俗どっぷりの目的がちゃんとあるわけよ。デカダンスの香りもヘチマもないわ。エマはダンサー仲間5人と寝るし、夫は不能と言っていたけど、別の女性とならちゃんとやれる。エマは留守中、夫が連れ込んだ女をえらい剣幕で叩き出す。夫との家庭にも未練あるのね。夫はエマたちが出演する舞台の監督だ。古くさくてついていけないと若い女の子たちはさっさと辞めてしまう。彼のアーティストとしての能力は甚だ疑問だけど息子の父親としては必要だとエマは思っている▼エマは計算の立つ頭のいい女とわかるが、それを“インモラルな新しいタイプの女性”と持ち上げるのに首をひねってしまう。彼女の計画がそもそもナンセンスだ。いくら仲のいい親友たちでも、市中の公共物に放火しまくっているうち、1人くらい怖くなって離反者か裏切り者が出るほうが自然だ。ところが彼女らはエマとベッドインに忙しい。クスリでもやって二六時中アタマ朦朧としているのか。エマの夫ガストンもことあるごとに“不能、不能”と言われているが、「お前以外の女ならいつでもOK」とエマに本当のことを言ってやれば、実子が持てる可能性だってあったでしょう。エマの存在を強引に物語に吸引させようとして、よく考えれば(考えなくとも)辻褄の合わないことおびただしい。そのチグハグを「独自の道徳観と美学」と言われたら、否定はしないけど「そんなものでしょうか」とブツブツいうしかない。

 

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