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特集「ペガサスを見上げる海は9月のベストコレクション」

2021年9月8日

特集「ペガサスを見上げる海は9月のベストコレクション」①
どん底作家の人生に幸あれ! (2021年 社会派映画)

監督 アーマンド・イアヌッチ

出演 デーヴ・パテール/ティルダ・スウィントン/ベン・ウィショー

シネマ365日 No.3683

ベンとティルダ

特集「9月のベストコレクション」

チャールズ・ディケンズの半自伝映画。原作を読んでいないとよくわからない唐突な展開もあるが、スピーディに登場する主要人物が退屈を救った。裕福な家に生まれたデヴィッド(デーヴ・パテール)が、母の再婚により継父に追い出されボトルの栓詰め工場で働く。母の死後、奴隷みたいに働かされていた工場を飛び出し、資産家の叔母ベッツィー(ティルダ・スウィントン)を頼る。叔母は快く甥を保護し学校に通わせ、法律事務所に就職させる。彼は所長の娘に一目惚れ、密かに婚約するが、元乳母ペゴティの「船の家」に旧友スティアフォースを連れて行く約束があった。友人はそこでペゴティに育てられていたエミリーと恋に落ち駆け落ち。デヴィッドがロンドンに戻ると叔母と友人のディックがデヴィッドの貧乏下宿に転がり込んできた▼「金融と炭鉱で全て失ったの。ウィックフィールド氏も説明できないけど破産よ。窓を閉め美しい庭を後にしてきたの。外の道にも執行官の荷馬車が2台」。顧問弁護士のウィックフィールドは何をしていたのかとデヴィッド。ことの経緯を質しにウィックフィールドの事務所に行くと、そこにはデヴィッドの使用人だったユライア(ベン・ウィショー)が事務所を乗っ取っていた。デヴィッドたちは貧民街に引っ越した。叔母は悠然と「あなたが私を受け入れてくれなければ悲惨な日々を過ごしていた。ディックさんと私でここをロンドン一のネズミの穴にしましょう」とさっさと片付けだす。「ネズミの穴」には路上生活者のミコーバーやその家族が同居するが、叔母は避けも嫌がりもせず、彼らに囲まれ団欒する。変わり者で偏屈だが心のやさしい女性だ。ただしロバが嫌いで、庭園にロバの荷車が来たりすると蹴りを入れるところがある。ミコーバーの情報でユライアの書類偽造が判明した。破れかぶれのユライアがデヴィッドに毒づく「叔母に面倒を見てもらう前のお前はただのクズだ。ミス・T(叔母のこと)。あなたは不快なババアだ。亭主に殴られたはずだ」。叔母がビンタを食らわす。ユライアが張り返す。叔母がもう一発。ユライアは取り押さえられ刑務所行き。駆け落ちしたエミリーが見つかった。場末の木賃宿でスティアフォースを待っていた。彼は嵐の夜に帰港し溺死する。急に話が飛ぶがデヴィッドは婚約者ドーラではなく、アグネスと結婚する。ドーラは病死してスクリーンから退場した。大団円の結末です▼本作のどこが高評価なのかわからない。アーマンド・イアヌッチ監督は多様性を重視し、長編の原作から前向きな明るい面だけを抽出したと言っている。だからどんな時も前向きに努力すれば人は必ず幸福になれるという人生賛歌だ。退屈な主人公のサクセスストーリーに、変化をもたらすのがユライアと叔母だ。デヴィッドに媚びへつらう使用人から詐欺師の乗っ取り犯へ。ベン・ウィショーのお見事な変身に1票。叔母の破産、それにまつわる悪事の露見がなかったらつまらない映画だった。ティルダの登場も面白い。彼女が落ち着いた声でカッキリした英語を喋る。貧富、身分を問わず「ネズミの穴」で暮らす人々の打ち解けた幸せなシーンは心に残る。これが監督の言う多様性のひとつだとしたら納得しよう。

 

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