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特集「ペガサスを見上げる海は9月のベストコレクション」

2021年9月12日

特集「ペガサスを見上げる海は9月のベストコレクション」⑤
ハッピーボイス・キラー(下)(2014年 サイコ映画)

監督 マルジャン・サトラピ

出演 ライアン・レイノルズ/ジェマ・アータートン/アナ・ケンドリック/ジャッキー・ウィーヴァー

シネマ365日 No.3687

ルシファー(堕天使)

特集「9月のベストコレクション」

フィオナもリサも会社に姿を見せなくなり、経理の同僚アリソンがジェリーを訪ねた。ジェリーが快適に過ごしていると思っている自宅は、普通の人が見れば殺人現場。血が染み込んだ壁や床、ナマ肉を詰め込んだタッパ、腐臭が漂いオエッ。ジェリーはアリソンも殺す。冷蔵庫の生首は3つになった。セラピーに来たジェリーの話を聞き、警察に通報しようとしたウォーレンをジェリーは拉致して家に監禁する。猫がそそのかす。「もう逃げられないぞ。仕事にも行けないし、ここにもいられない」。フィオナの生首が口を開く「猫の言った通りにしてみたら?」「人を殺してまわり、もっとでかい冷蔵庫を買うのか」。彼はセラピストのウォーレンに自分のしたことは皆「猫のせいだ」と告げ、「いや、僕のせいだ。悔やんでいる」そう言ったと思うと「僕は充分我慢した。殺人くらい許される」混乱に陥ります。会社からの通報で家をパトカーが取り囲んだ。警察が突入する前にジェリーは地下道に潜り込んで逃げようとした。誤ってガス管を破壊、自宅は火に包まれる。踏み込んだ警官隊がウォーレン医師を救出した。炎の中でジェリーは自分だけに聞こえていた声から、逃げるのをやめた▼救いのない映画なのですが、ウォーレンはジェリーに言います。「心の声が聞こえるのはあなただけじゃない。私も自分が患者に言ったことを、後から迷うことがある」。フィオナの生首は「私を殺したのはあなたよ」「そうだけど、でも違うのだ」。猫がシタリ顔で口をはさむ「悪いのは俺か? 聞こえているのはすべてお前の心の声だぞ」。重層的な人の心理。コンプレックスと後悔にまみれ、自信を喪失し、困難や失敗を人のせいにし、そんな自分を嫌悪するジェリー。強い自分と弱い自分がいて、勇敢で善良な社会の一員として自覚できる時もあれば、社会そのものが薄っぺらな、人を排除する巨大な機構にも化す。犬と猫(金魚も一役買います)などのメルヘンチックな脇役のせいで、陰惨な葛藤が糖衣にまぶされて気づきにくいだけで、ジェリーのかけらは自分にもあるのではないか、そこで初めて(ひどい監督だなあ)と思い知らされる。冷蔵庫の生首となったジェマ・アータートンやアナ・ケンドリックがニコニコ喋りかけ「猫の言うことを聞いたら? もっと大きな冷蔵庫、買う?」なんてブラックそのものです。こういうマンガチックな手を使って、邪悪を刷り込ませる巧妙なテクに抵抗するのは難しい。なぜなら私たちの心そのものに邪悪があるからね。そうそう、劇中ジェリーがこんな質問をフィオナにします。「聖書に出てくる名のある天使は4人だ。ミカエル、ラファエル、ガブリエル、4人目がルシファー」彼こそは堕天使。神に謀反し怒りをかい、天国を追放されたアウトサイダー。文学も絵画も歴史は堕天使を数限りない作品で主人公に選んでいます。天使の仲間からはみ出した天使がそんなに魅力的? 監督はそう信じているフシがある。

 

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