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特集「ペガサスを見上げる海は9月のベストコレクション」

2021年9月14日

特集「ペガサスを見上げる海は9月のベストコレクション」⑦
ザ・マスター(下)(2013年 社会派映画)

監督 ポール・トーマス・アンダーソン

出演 ホアキン・フェニックス/フィリップ・シーモア・ホフマン/エイミー・アダムス

シネマ365日 No.3689

自分自身であることだけ

特集「ペガサスを見上げる海は9月のベストコレクション」

ドッドの元を去ったフレディだが、イギリスに支部を出したというドッドの電話を受け、ロンドンに渡る。支部は「すごい部屋だな」。エリザベスはDCF(ガン化学療法)中だった。「あなた、ひどい姿ね。健康そうに見えない」とペギー。「俺は健康にはなれないのだ」とフレディ。彼は不健康で不健全で社会的逸脱者であり、それ以外の人間にはなれないのだというのです。こんなセリフを聞くとやっぱり「ブギーナイツ」の監督だなあと思うのですね。あの映画でポール・トーマス・アンダーソン監督はかつて全盛を誇ったポルノ映画業界で、今は取り残された監督や女優、出演俳優たちを取り上げ、でも自分たちの居場所はここなのだと、軸足を動かさないアウトサイダーを描きました。彼らもまた「そうはなれない」人種でした▼ドッドは「君はマスターを必要としない最初の人間だ」とフレディに言いますが、どだいマスターを必要とする人間ってどこにいるのかお目にかかりたいわ。例えば仕事もあり子供がいてキリキリ舞いしている女性が「君はマスターを必要としない最初の人間だ」などと聞いて価値を覚えるとでも? いらんわよ、そんな余計なもの。フレディは気力も体力も弱っていて社会のどこにも自分の場所が見出せず、弱っていたから「マスター」に「君を好きなのは私だけだ」とか「君の狂気を治せる」とか言われて一時は落ち着いたけど、やっぱり自分がいかにどうしようもない男でもそれ以外にはなれないとわかる。監督はフレディの選択について何も説明していませんが、ドッドについてはかなり雄弁ですよ。ドッドが「君はここを去れば二度と会わない」というとフレディは「次の人生で会おう」と答えます。そうなれば自分は君の最大の敵になる、とドッドは答え「中国行きのスローボート」を歌います。聴きながらフレディは涙を流す。「君をさらって乗せよう、ゆっくり進む中国行きの船に、ふたりだけで乗っていこう、君をいつまでもこの腕に抱きしめて、恋敵はみな残して」…熱いラブソングを切々と歌う。ドッドがフレディに恋着するただならぬ思いです。ドッドもまた教祖などという衣装を脱ぎ捨てればただの恋する男だった。ラストは冒頭と同じ、フレディが海岸で女性の裸婦像を作り横たわっている。相変わらず酒場で女を口説き、セックスして酒を飲む生活▼興奮もなく、熱狂もドラマもない映画ですが、人生に向き合うのに必要なのは、自分自身であることだけ、またそれを投げ出さないことだけとわからせてくれます。

 

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