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特集「ペガサスを見上げる海は9月のベストコレクション」

2021年9月15日

特集「ペガサスを見上げる海は9月のベストコレクション」⑧
ノマドランド(上)(2021年 社会派映画)

監督 クロエ・ジャオ

出演 フランシス・マグドーマンド/デヴィッド・ストラザーン

シネマ365日 No.3690

住み慣れた町は廃墟に

特集「ペガサスを見上げる海は9月のベストコレクション」

ふうん。「在宅ひとり死のススメ」(上野千鶴子著)がベストセラーになる日本とはなんと違った風土でしょう。リーマンショックで生活が根こそぎ奪われた大事件に遭遇して、「ノマド」(現代の遊牧民)という発想ができることにまず驚いた。日本ならいちばん先に駆け込むのはハローワークでしょうね。ヒロイン、ファーレン(フランシス・マグドーマンド)は違う。夫に死に別れ、家財道具を売り払い、キャンピングカーを買って生活用品を積み車上生活をしながら季節労働の仕事を渡り歩く「ノマド」になった。Amazonの配送工場で働き先輩キャンパーのリンダや他のノマド仲間と知り合い社員食堂では楽しく雑談した。ファーンはリンダにノマド生活者のイベント「砂漠の集い」に誘われた▼PSTDのベトナム帰還兵は大きな音、花火、人混みがダメ。「でもキャンピングカーで暮らし始め心が穏やかになった」。中年の主婦「両親ともガンで亡くなった。ボブ(ノマドの集まりの主催者)の動画を知りヴァンを買い2年半前旅に出た」。高齢の女性「20年会社勤めをした。ボブという同僚が、定年の1週間前に肝臓病でホスピスに入った。会社から電話があり退職の条件を言ってきた。10日後に彼は死んだ。人生を楽しむ暇もなかった。彼は言った。時間を無駄にするな。だから退職した。死ぬ前に後悔したくないから」。リンダは「ヴァンに移り住む前は仕事を探して駆けずり回っていた。自殺も考えた。62歳になる前だったから公的年金の額を調べた。たった550ドル。私は12歳から働いて娘ふたりを育てた。そんな時ボブの提唱するRTR(ラバー・トランプ・ランデブー)を知った。ノマド初心者の訓練所みたいなものよ」。砂漠で集まり、車上生活の知恵や技術を学び合い、物々交換もし、ひと区切りつけてまた出発する。ボブはファーンに言う。「過酷な人生だね。夫も住んだ町も友達も失うとは。誰でもそう簡単には立ち直れないよ。僕は何の助言もできないが、答えを探すには、ここはいい場所だ。自然とつながり人との絆を育む」▼それぞれは去ったがファーンは残った。タイヤがパンクしていた。近くに駐車していたスワンスキーに「町まで乗せて」と頼む。スワンキーは75歳。「スペアタイヤがない? 荒野でキャンプしているのに、死んだっておかしくないのよ。旅に出る前に忠告するわ。車にGPSを備えなさい。救助の呼び方とかタイヤの交換は最低限のスキルよ」。スワンキーは肺がんの手術をしたが脳に転移していた。保って7、8か月らしい。「私は旅を続けるわ。もう一度アラスカに行きたいの。安楽死の本をいずれ参考にするわ。いい人生だった。カヤックを漕いで美しいものをたくさん見た。アイダホの川でヘラジカの家族に会ったわ。カーブを曲がる崖一面に何千というツバメの巣があって無数のツバメが舞い、それが水面に映り私もツバメと飛んでいる気がした。あまり美しくてこの瞬間に死ねたら幸せだと思った。私が死んだら焚き火に石を入れて偲んでちょうだい」その日は紫色の雲がたなびく綺麗な夕焼けだった▼ファーンが遭遇した凄まじい町の壊滅状態も書いておこう。冒頭、字幕が紹介するのは「2011年1月31日。USジプサム社は業績悪化によりネバタ州の石膏採掘所を閉鎖した。企業城下町であるエンパイアの住民は離散。7月には町の郵便番号も抹消された」。町ひとつが廃墟となったのである。

 

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