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特集「秀麗の10月ベストコレクション」

2021年10月6日

特集「秀麗の10月ベストコレクション」⑥
ウェイティング・バーバリアンズ帝国の黄昏(下)(2021年 社会派映画)

監督 シーロ・ゲーラ

出演 マーク・ライアンス/ジョニー・デップ/ロバート・パティンソン

シネマ365日 No.3711

捏造した「敵」

特集「秀麗の10月ベストコレクション」

原作はノーベル文学賞受賞者J・M・クッツェーの「夷狄を待ちながら」。撮影はモロッコだった。一面が砂漠である辺境の孤独感がよく出ていた。「ある小さな町」に来る蛮族討伐隊というのが帝国の威光を降りかざすだけの頭空っぽ部隊。そのトップを演じるジョニー・デップがはまっている。黒めがねの鼻の部分がX型に交錯し、民政官に「そのメガネはなぜ?」と聞かれると「日よけ」だといい、「肌がしわになる」とメガネを外し、見せてくれと頼んでいないのに頬を見せる。クソ暑い砂漠で手袋を外さない。連続殺人鬼みたいに気色悪い。本作の悪役はジョニデの新境地を開くはずだったのに、公開後の評価は失笑モノだった。彼はアンバー・ハードとの離婚裁判が暗礁に乗り上げ、DV被害を訴えた元妻をジョニデは名誉毀損で告訴、ワシントンポストとイギリスのSun紙をも訴えた。しかし裁判が進行するにつれ、ジョニデの旗色が悪くなり、彼のDVは本当らしいという見方が大方になった。そういう事情があって、本作の役柄がサディストの拷問者とくるとまるでギャグ。作品の真価そのものより浮いた評価になってしまったのは気の毒だ▼本作は今の国際情勢を彷彿とさせます。敵が攻め込んでくるかもしれないという危機的状況があって、それに虚偽の情報やデマが加わり戦争が勃発する。報復手段あるのみで、事態は旋回しながら止まることなく最悪を呈し、国も国民も巻き込まれ衰亡と破滅に至る道しかない。それというのも最初は「かもしれない、だけの噂だった」が本作のスタートです。帝国の中央本部が勝手に描いた統治手段なるものが、辺境の遊牧民を痛めつけるだけだったことも、列強が侵攻し敵とみなした国を「痛めつける」だけで、自国の利益を奪っていく構図にそっくりです。民政官が木簡の文字を自分の意見に置き換えて、大佐に読んで聞かせる蛮族の主張とは「帝国の横暴に虐げられた辺境の地の住民は、苦痛と恨みを強いられている。戦争と記された文字は逆さに記されれば復讐と読める。ここで起きる出来事は帝国の戦争計画なのか、あるいは帝国の黄昏となる歴史なのか」。世界のそこかしこで起きている紛争に即当てはまります▼マーク・ライランスは、辺境勤務で間もなく定年を迎える朴訥な官吏を演じます。平凡な初老の男性で一生を辺境に捧げ、住民と仲良くなり、遊牧民の本質を理解している。彼らは移動する民であり、攻撃などしてこない。ここのトラブルといえばヒツジ泥棒か、柵を乗り越えて入り込んできたブタの処罰(?)だ。蛮族の侵略などと勝手に仮定し、帝国の威光によって鎮圧しようなど、あの大佐は精神が異常だ。マーク・ライランスとジョニデ、あるいはロバート・パティンソンの絡みは、サドとマゾという単純な分割構図ではなく、知性対狂気が相克する見せ場です。マーク・ライランスには「もうひとりのシェイクスピア」「ブリッジ・オブ・スパイ」の佳品があり、後者でアカデミー賞助演男優賞をとっています。

 

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