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特集「フレンチ・ノワール」

2021年10月27日

特集「フレンチ・ノワール2」③
獣人(1950年 犯罪映画)

監督 ジャン・ルノワール
出演 ジャン・ギャバン/シモーヌ・シモン

シネマ365日 No.3732

どうして私なの!

特集「フレンチ・ノワール2」

エミール・ゾラの「獣人」が原作です。冒頭、人には祖父や父から受け継いだ先天的な精神の疾患、自分の意志では制御できない突然の暴力衝動があると字幕に出ます。機関士のジャック(ジャン・ギャバン)は、自分の運転する機関車を「リゾン」と名付けるほど、仕事を愛する誠実な男性です。リゾンの車軸を整備する3日間、ル・アーヴルの車両区で待機することになった。その間に故郷に残した恋人と養母に会いに行く。ジャックは密かに遺伝の発作を恐れている。まるで霧がかかったみたいに頭の中が覆われ、すべてが崩壊する感じで凶暴になる。酒を少しでも飲めば発狂する。「大酒飲みだった祖先の汚れた血で俺は毒された」と。だから恋人を愛しているが結婚は諦めた。養母らと別れル・アーヴルに戻る車中でジャックは駅長のルボーと妻のセヴリーヌ(シモーヌ・シモン)が、セヴリーヌの養父グランモランを殺害する現場に遭遇する▼走る列車の中での事件だ。廊下に出て目のゴミを取っていたジャックは、コンパートメントからセヴリーヌが出てくるのを見たが、彼女の妖しい美しさに惹かれ警察には誰も見なかったと報告した。ルボーは異常に嫉妬深い夫で、妻が養父から指輪をもらったというだけで暴力を振るう。セヴリーヌはジャックを口止めするため会うようになるが、夫とは違うジャックのやさしさに惹かれて行く。「俺と一緒に来てくれ」と口説くがセヴリーヌは応じない。「不幸な幼少期だった」というのは養父の性的虐待だ。セヴリーヌの不幸な身の上がジャックの恋愛を強める。「私の夫が死んでくれたら」とセヴリーヌが漏らす。ジャックはルボーを殺すつもりで待ち伏せしたが殺せなかった。セヴリーヌ「あなたには無理なのね。私たち、これ以上進めない。私は希望が持てなくなった。ルボーに殺されるまで惨めな人生を送るだけ」「別れられないのか」「絶対に見つけ出す。死だけが夫と私を切り離してくれる」▼ジャックは「今夜やつを殺す」と再度約束する。セヴリーヌの自宅でルボーの帰りを待つ。ルボーが帰ってきた。「あなたは扉の後ろに隠れ、私がドアを開けたらためらわずに撃ってね」。女を凝視する男の顔つきが不気味に変わる。「どうしたの、ジャック、ねえ」不安におののく女の首をグイグイ絞めにかかる。「どうして私なの!」。夫が妻の遺体を発見した時ジャックは夜の鉄路をまっすぐ歩いている。何もかも終わってしまった。男の絶望が、ジャン・ギャバンの全身に張り付いている。整備を終えたリゾンを運転しジャックは駅を離れた。セヴリーヌとの仲を知っている機関士の相棒は「彼女に会ったのか。まだ続いているのか」「殺したんだ。二度と会えないんだ。俺は生きていけない。愛してたんだ。彼女の小さい手が好きだった。これ以上耐えられない」。言うとジャックは機関車の屋根に上がり飛び降りた。線路脇の草原で遺体は発見された。「かわいそうに。苦しかっただろう。こんな幸せそうな顔は久しぶりだ」と相棒は悼む▼故郷の恋人との結婚さえ諦めたジャックが、ファム・ファタールに出会い駆け落ちしようという。実現しかけたとたん、獣性が発症し殺人に至る。ゾラの見解はどこまで科学的な根拠があるのかわかりませんが、ジャックが命を棒に振った原因は病気もさることながら、それを噴出させた女にある。セヴィリーヌは暴力亭主から逃げるためにジャックを利用したひどい女ですが、「もう私たちは前に進めない」と恋の終わりを知り「あなたと知り合った頃は幸せだった。愛していたけど追いかけなかった」という言葉に、本来恋愛の本質を知っている聡明な女性だったと思えました。ジャン・ギャバンの男の悲しみもさることながら「どうして私なの!」というリアルなセリフで、恋愛の不透明と女のエゴを一瞬で沸騰させたシモーヌ・シモンがいい。

 

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