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特集「初霜は11月のベストコレクション」

2021年11月8日

特集「初霜は11月のベストコレクション」⑧
アンモナイトの目覚め(上)(2021年 事実に基づく映画)

監督 フランシス・リー

出演 ケイト・ウィンスレット/シアーシャ・ローナン/フィオナ・ショウ

シネマ365日 No.3744

荒磯で岩を叩く女

特集「初霜は11月のベストコレクション」

メアリー・アニング(ケイト・ウィンスレット)は過去に化石発掘で名声を得たが、今は世捨て人同然。故郷、イングランド南西部のライム・レジスで観光客相手に土産物用のアンモナイトを売り病身で老いた母の介護をしながら細々と暮らしている。彼女が世間と没交渉を選んだのは、発掘の成果はみな男性科学者に横取りされ学界は女性の論文発表も認めず、化石に対する情熱も薄れ中年となり、イヤイヤ生きているようなものだからだ。そこへかつてのメアリーの業績を知る化石収集家、マーチソンが妻同伴で訪ねてくる。メアリーは不機嫌丸出しで対応する。彼は町のホテルに一泊し、メアリーが独学で習得した「石を見てピンとくる」洞察力を見学したいと、翌朝荒波の打ち寄せる海岸で一緒に発掘し、彼女の知識や経験を吸収して多額の謝礼を払った。用がすんだのにグズグズしている彼に「まだ何か?」愛想もコソもなく訊く▼「妻がウツで体調が悪い。ここは空気もいいし保養地としてうってつけだと思う。僕は考古学ツアーであちこち回るので病弱の妻は連れていけない。4、5週間、長くても6週間、預かってもらえないだろうか」。(冗談じゃない、母親ひとりでも大変なのに)なのだが、お礼は弾むというし「あなたは親切に僕に教えてくれた。妻にもきっとやさしくしてくれるに違いない」の言葉にほだされる。この妻シャーロットがシアーシャ・ローナンだ。見るからに細く弱々しく、大きな声も出せそうにない。頑丈なメアリーに並ぶと岩に蝶が止まったみたいだ。海岸に連れて行き採集の現場を見せても、ボ〜と立っているだけ。そのくせ自身も考古学者の彼女は「あの岩はどう」と口を出す。「迷惑なのよ、あなたを預かるのは。でもお金をもらったから連れてきたの。私の仕事に口を出さないで」メアリーはいきなりアッパーカットを食らわす▼ところがこの若奥さま、見かけの割に芯が強く「病気を治したいのよ」と叫んだ。「水泳やお散歩で治したいのよ。労働じゃない」。労働じゃない、がいかにも上流階級だが、偏屈女に負けまいと力を振り絞って言い返したのだ。「水泳? 水泳なら私にかまっていないでひとりで泳げば?」。シャーロットはムカつく。身支度を整え、海に入ったが荒い波にのまれ沈没しかけた。翌日体の具合がおかしくなる。ホテルからよろよろとメアリーの「アニング化石店」に来たが、一歩入るなり失神する。メアリーは肝をつぶす。「母さん!」助けを呼んでベッドに運び、医師リーバーソン博士を呼んだ。高熱で肺炎を起こし、生死に関わるというではないか。「24時間、看護が必要です。目が離せません」「冗談じゃない。見ず知らずの女よ!」。1人で泳げば、と言ったのを真に受け海に入ったのだ。どこまで世話の焼ける奥さまだろう。医師は、メアリーはつっけんどんで無愛想で人嫌いだが、冷酷な女性ではない。化石収集を一生の仕事として誰に相手にされなくてもコツコツと、荒磯で岩を叩く類い稀な女性だ。医師はメアリーの人間性を理解している。というより、そんなメアリーに気があるのである。「女性は女性同士、助け合うものです」。穏やかに言い含めた。彼女はこう見えて情のある、絵も描き(採集した化石を素描に残すため絵画力は必須)、古ぼけてはいるがチェンバロのあるのは、弾くこともあるのだろう。部屋も貧しくこそあれこざっぱりしている。感性に富む女性なのである▼自分のベッドにシャーロットを寝かせているから、メアリーは毎夜、椅子に腰掛けて寝る。医師の指示通り額に冷たいタオルを当て何度もとり変え、火照った腕にも巻いてやる。胸に刷り込む軟膏(メンタムみたいなものか)を知人のエリザベス・フィルポットの家に買いに行った。メアリーはエリザベスの元カノである。そう思っていたのはエリザベスだけだったかもしれない。心を閉ざして打ち解けてくれないメアリーにほとほと匙を投げ、エリザベスは撤退した。今でも愛している。「家に入っていけば」やさしく声をかけ、代金を払うメアリーに「苦労して得たお金でしょ」と押しもどすと、コッテ牛みたいな頑固女はグイと押し返すのだ。エリザベスはメアリーの後ろ姿につぶやく。「相変わらずね」。この「相変わらず」がまさか…とんでもない事態に発展した。

 

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