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特集「初霜は11月のベストコレクション」

2021年11月12日

特集「初霜は11月のベストコレクション」⑫
ハッピー・バースデ〜家族のいる時間(下)(2021年 家族映画)

監督 セドリック・カーン

出演 カトリーヌ・ドヌーブ/エマミュエル・ベルコ/ルアナ・バイラミ

シネマ365日 No.3748

混乱しているのが家族

豪華に整った晩餐の席で、クレールが突如頭をテーブルに打ち付ける。ガンガンガン、凄まじい音に全員飛び上がる。振り向くと、クレールが額から血を流して気絶している。病院に。長男と母親がつきそう。医師が「1日入院して明日精神科に回します」。母親が病室に入るとクレールは抱きついて「もう私に構わないで」と思うと「私を置いていかないで」。錯乱状態だ。家に戻って話し合った。「強制入院させるべきだ」と長男。「パパ、どう思う? 意見くらいあるだろう」「ジャン(父親の名前)、決めて」とママ。父親はマリー(長男の嫁、医師)に「入院は必要か」「充分混乱しているわ」。弟ロマン「映画は姉貴のアイデアだ。俺じゃない」どこまでもアサッテ向いた男である。ママは長男に「あの子(クレール)が邪魔なのね」。パパはいきなり「妄想のない人生に何の意味がある?」。見事に噛み合わない会話が壮観だ。クレールは退院した。みんなで仲良くやろうよと予定調和に落ち着くかと思いきや、ママと一緒には暮らせないとエミリは恋人と出て行った。トドのつまり、何も解決しないまま監督は放り出すのである。調子よくつじつまを合わせていないところがいいわ▼今のフランス映画界注目株の出演です。イカレっぷりが最高のクレール役エマニュエル・ベルコ。女優ですが「太陽のめざめ」で監督を。カトリーヌ・ドヌーブを家庭裁判所の判事に、問題児たちの長期にわたる交流を見守る役を与えました。長男の妻役、レティシア・コロンバニも女優と同時に監督進出、「愛してる、愛してない」は佳品でした。小説家としても「三つ編」はフランスで100万部突破のベストセラー。エミリ役。どこかで見たと思ったら「燃える女の肖像」で、ヒロインたちに可愛がられた少女のメイドではありませんか。もはや説明不要でしょうがカトリーヌ・ドヌーブ。60代からほとんど「母もの」ですが、サスペンスあり、社会派あり、内容が多彩です。バカ娘の殺人を隠滅させる母親「女神よ、銃を撃て」、娘を殺した男を37年かけて有罪に追い込んだ母「愛しすぎた男」、母親の骨髄移植のドナーを弟と張り合う姉娘との確執「クリスマス・ストーリー」。是枝裕和監督の「真実」では往年の大女優のわがままと孤独を。口うるさい娘、ジュリエット・ビノシュとのやりとりがユーモラスでした。彼女のゆったりとしたタイムレスな生き方と美貌は、ファンであれ、アンチファンであれ、大女優としての実りを感じさせる落ち着きがあります▼才能あるクリエイターの集まりとしては小粒すぎたのでは、と思われる向きもあるかもしれませんが、「ハッピー・バースデ〜」をハッピーに終わらせず、家族の現実の多くは語り得ない深い襞(ひだ)の中にあり、かくも曖昧に、かくも未解決なまま推移し、悲しみと揉め事と諦めが付きまとい、時折不意に浮上する愛が見える、そんなぶっきらぼうな終わり方に運んだところは、いかにも厭世観に裏打ちされたヨーロッパ映画という気がします。

 

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