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特集「初霜は11月のベストコレクション」

2021年11月14日

特集「初霜は11月のベストコレクション」⑭
ファーザー(下)(2021年 社会派映画)

監督 フローリアン・ゼレール

出演 アンソニー・ホプキンス/オリヴィア・コールマン/イモージェン・プーツ/オリヴィア・ウィリアムズ

シネマ365日 No.3750

何も心配しないで

「お父さん、話があるの。私の家に来たこと覚えている?」アンは父に話しかけた。「アンジェラと衝突して、私のところへ来たの。でもお父さん、私の家よりここの方がずっと楽に暮らせるわ。うちより安心だし快適ですもの」「お前はどうする。お前の部屋はどこだ?」「忘れたの? 私はパリに住むのよ」「私と一緒にいると言っただろ。私はどうなる」「ここで、ロンドンで暮らすの」「お前の妹はどこだ。ひとつも連絡がない。会いたいのだ」「みんな、会いたいわ」。アンは涙を浮かべ施設を去った。中庭に大きなブロンズ像が。頭の半分がない巨大な像だ。ある朝のアンゾニー。起きたら時計がない。ドアを開けたら無味乾燥な廊下だった。部屋に女性が来た。買い物から帰ってきてアンと呼んだ女性だ。「なぜ私はここに? アンはどこだ」「数ヶ月前からパリにお住まいです。時々週末にいらして公園を散歩して、新しい暮らしの話をなさっています」「君は?」「キャサリンです」「私は誰だ」「アンソニーです」「いい名前だ。母がつけてくれたのだ。母さんに会いたい。ここを出たい。ママを呼んで。迎えに来てほしい」。アンソニーはキャサリンにすがって泣いた▼彼の部屋から窓外に大きな木立が葉叢をそよがせている。アンソニーは言う「すべての葉を失っていくようだ。私に何が起きているのだ」「すべての葉? どういう意味です?」「枝や風や雨…何が何かわからない。身を横たえる場所もわからない。だが、腕時計が手首にあるのはわかっている。旅に備えて。そうでないと見失ってしまう。心構えができているかどうか…」死の心構えだとキャサリンにはわかる。「まずは着替えましょう」キャサリンはやさしく話し続けた。「服を着たら公園に散歩に行きましょう」「うん」「木や葉っぱを見て戻ってきたら何か食べましょう。そのあとはお昼寝をするのよ。目が覚めて気分がよければまた公園を歩きましょう。2人きりで。気持ちのいい日ですもの。よく晴れているわ。せっかくの太陽を楽しまなくては。いい天気は続かないの。だから着替えましょう。いいわね?」「いやだ」「そう言わないで。いい子だから大丈夫よ。さあ、もう平気。気分が落ち着くわ。本当よ。何も心配しないで」…窓の外には緑の木立。鬱蒼と葉をなした何本もの大樹が風にそよいでいた▼役者は語らぬセリフで真価を発揮するというが、饒舌な父親がタクシーの窓にもたれて沈黙する、その時のアンソニー・ホプキンスの虚無感は名状し難い。人間の最後の尊厳をどう、いかに守る。終着駅に来て私たちは溶けていく脳、消えていく記憶に向き合う。ラストでキャサリンの話しかける低い静かな声。長い引用になっていますが、失われゆく知性を慰撫するこのシーンが、本作のクライマックスだと思います。アンソニー・ホプキンスとオリヴィア・コールマンの二大オスカー組以外に、ローラ役のイモージェン・プーツ。「Vフォー・ヴェンデッタ」「汚れなき情事」「聖杯たちの騎士」など。ポール役のルーファス・シーウェル。「ツーリスト」「ジュディ虹の彼方」。キャサリン役のオリヴィア・ウィリアムズ。「ゴーストライター」「ハンナ」「マップ・トゥ・ザ・スターズ」らが光っていました。

 

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