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特集「頑張るドイツ映画と女性監督」

2021年11月19日

特集「頑張るドイツ映画と女性監督4」⑤
マスターズ&スレイブス支配された家(下)(2018年 社会派映画)

監督 オスカー・レーラー

出演 オリヴァー・マスッチ/カッチャ・リーマン/サミュエル・フィンジ/リゼ・フェリン

シネマ365日 No.3755

クラウスの微笑

特集「頑張るドイツ映画と女性監督4」

英気を取り戻したエヴリンは経営に復帰した。人が変わったようにハツラツとなった。出かけようとして「時計がないわ。どうせ何処かにおき忘れたのね」意に介せず出社したあと、バルトスが来た。「問題が起きました。奥様の時計が盗まれました」犯人もわかったという。クラウスが犯人を厳しく戒めようとすると「彼らが従うのは恐怖のみです」とバルトス。ニヤニヤ笑って服従しない犯人をクラウスはこっぴどくゴルフクラブで打ちのめす。エヴリンが帰宅すると労働者たちが車に分乗して出て行くところだった。「クラウス、ありがとう。奴隷の人たちを帰したのね。あのパーティーで私、目が覚めたの。何か非人間的だった。あんなふうになるの、イヤよ。バルトスとラナにも引き取ってもらうわ。大体は伝えてある。下であなたを待っているわ」▼バルトスたちを去らせた後エヴリンは夫に言う。「楽しかったけど、自分が変わっていくのがイヤなの。あなたも変わったわ。さっき病院に電話した。いつ話すつもりだったの?」クラウスは美容整形の医療過誤で解雇されていたのだ。「これでよかったのだ。エスプレッソも自分で注ぐよ」「もっといい仕事が見つかるわ。家でゆっくり休めばいい」「僕に主夫になれ? 悪くない。もっと一緒に過ごせるし」婦唱夫随であります。だが平和は激変する。夜中にバルトスから電話。指示通り庭に出ると、クラウスが打ち据えた労働者の死体が放置してあった。クラウスは男を埋めた。邸内に戻るとバルトスとラナが入り込んでいた。クラウスに「君の選択肢は2つだ。牢屋で15年過ごすか、家を明け渡しガレージの隣に住み、俺たちの奴隷になるかだ。それで何も見なかったことにしてやる。あんたは奥さんの財産を相続し、それを俺たちが遣い、みんなで充実した日を過ごすのさ」「妻はビタ一文、君たちに渡さん」「わかっとらんな。猶予は明日の夜12時まで24時間だ」▼朝になった。バルトスは来なかった。代わりにモハメッドが来た。「昨夜バルトスたちにばったり会ってね。俺の家に寄ってもらった。全部ゲロしたよ。なんで俺に言わなかった。このモハメッドの友を脅すなんてゆるさねえ。クラウス、俺からプレゼントするものがある」。謎の小部屋に招じられた。この部屋は拷問器具が揃っていた。ストレッチャー2台にバルトスとラナが縛り付けられている。モハメッド「お楽しみはとっておいたぜ」必死に助けを求めるバルトスに「自分で言っていたろう。我々を人間扱いするなって。ほれ、小さく刻め(電動ノコを押し付け)。奥さんを殺して家を奪おうとしたやつだぞ、何をしている! ぐずぐずしたらコレだぞ」モハメッドはクラウスのこめかみに銃を突きつけた…ここはガーデンパーティー。50歳を祝うクラウスの誕生日だ。豪華なケーキ。友人たちの祝福。もちろんモハメッドもいる。庭には洒落たプールが出来上がっていた。エヴリンが呼びに来た。「皆が待っているわ。何をしているの、50歳になるってそんなに大変?」かしずかれて舞い上がった夫婦。途中で「こんなのおかしい」と自分を取り戻し、神経症まで治った妻。バルトスの失敗はエヴリンが差別の不自然に本能的に気づいたこと。やさしい夫ではあるが職場ではチョンボする、クビになる、優柔不断のクラウスにその弱点を補って余りある友人がいると知らなかったこと。友人の解決力は殺し。ひとつひとつの事象はもっともらしい現実の出来事みたいだが、全編通すと白昼夢みたいな余韻を残すホラーです。オスカー・レーラー監督には「アグネスと彼の兄弟」「素粒子」があります。病んだ男や女が安らぎや愛のかけらを得ようとして得られず、傷つきあるいは死を選ぶ。どちらもやるせない作品ですが、突き放すだけでない透明感がありました。そういえば本作のラストのガーデンパーティーは明るい陽光の下でした。トラブルまみれの現実に拮抗する価値が人生にはあるかもしれない。俺は悪と弱さに折り合いをつけ生きて行く。50歳になるって、いいことでも悪いことでも、大変なことでもないのだ…そんなクラウスの微笑でした。

 

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