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特集「頑張るドイツ映画と女性監督」

2021年11月22日

特集「頑張るドイツ映画と女性監督4」⑧
ヒトラーへの285枚の葉書(上)(2017年 事実に基づく映画)

監督 ヴァンサン・ペレーズ

出演 エマ・トンプソン/ブレンダン・グリーン/ダニエル・ブリュール

シネマ365日 No.3758

名もなきドイツ人夫婦

負け戦であることは自明だ、悲惨な結果であることもわかっている、命の保証は元よりない、でもやらずにはおれない。そんな事態に自ら踏み込んで行った名もなき夫婦が主人公だ。オットー(ブレンダン・グリーン)はベルリンの木工工場の職工長。妻アンナは主婦。最愛の息子が戦死した。妻は夫がナチとヒトラーへの告発を小さな葉書に書いているのを知る。「総統は私の息子を殺した。あなたの息子も殺されるだろう」。「私もやる」とアンナ。「女でも死刑だよ」「承知の上よ」「私が公共の建物にカードを置く。君は建物に入るな」。夫婦のレジスタンスが始まった▼夫婦と同じアパートに高齢のユダヤ人女性、ローゼンタールがいた。ある夜強盗に押し入られ、辛くもやり過ごしオットー宅にかくまってもらうが、ここにいてと頼むアンナの申し出に「あなたたちに迷惑がかかる」と言って部屋を出る。フロム判事も同じアパートにいた。彼は老婦人に声をかけ自分の部屋に入れ「当分ここを出ないように。一歩でもこの家を出たら保護できません。私は法廷で“冷血フロム”と呼ばれている男です。私が従う主人はただひとり“正義”です」。今のドイツは間違っていると彼は指摘する。しかし婦人は夫が帰ってくるかもしれないという希望を捨てられず、自分の部屋に戻って“ユダヤ人刈り”に踏み込まれる。彼女は窓から身を投げた。ドイツ人の中にもユダヤ人を助けるドイツ人はおり、オットー夫婦とは別の形で抑圧と暴力の社会に抵抗していた。息をひそめながら信念を貫こうとする彼らの緊迫感が息苦しい▼「戦争マシンを止めろ」「ヒトラーの影は悪魔のごとく欧州を覆う」「このカードを回せ。政権の打倒を!」最初は単純な馬鹿者の憂さ晴らしと見ていた警察だったが見逃しておけなくなる。「ヒトラー政権で平和は訪れない」「労働者は戦争で死ぬ」「人殺しヒトラーを止めろ」「自分を信じろ。ヒトラーを信じるな」。エッシャリヒ警部(ダニエル・ブリュール)は市民から届けのあったカードの置き場所を、壁に貼った地図にピンで留めている。ナチ親衛隊長のプラル大佐が事件の早期解決を催促される。彼らが「ホブゴリン」(小さな悪魔)と名付けた犯人は頭がよく、わざと下手な字を書き指紋も残さない。警部はプロファイリングから犯人は一人息子を戦争で失った労働者階級の男と推測した。オットーの目撃者が現れた。人相書きが配られ容疑者が逮捕されるが、犯人像とは似ても似つかないので警部は釈放する。腹を立てた大佐は警部を暴行し2日以内に再逮捕しろと命令した。スケープ・ゴートにするつもりだ。男を発見した警部は親衛隊に拷問されるより、ここで殺される方がラクだと判断し、河原で射殺、自殺として処理する。警部にも親衛隊の独走、ひいてはナチズム、さらにヒトラー政権への不信と疑念が湧いてくる。葉書の告発人への共感を覚えた。手元に集まったカードを警部は熟読するようになる。

 

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