女を楽しくするニュースサイト「ウーマンライフ WEB 版」

  • facebook
  • twitter
  • line
  • rss

特集「頑張るドイツ映画と女性監督」

2021年11月24日

特集「頑張るドイツ映画と女性監督4」⑩
カタリーナ・ブルームの失われた名誉(1979年 社会派映画)

監督 フォルカー・シュレンドルフ/マルガレータ・フォン・トロッタ

出演 アンゲラ・ウィングラー

シネマ365日 No.3760

殺さない訳にはいかない

1975年2月5日から1週間の出来事です。カタリーナ(アンゲラ・ウィングラー)がパーティーで知り合い一夜を共にした男ゲッテンは銀行強盗犯だった。翌朝警察が踏み込んだが男は逃走していた。カタリーナの家は家宅捜索、彼女は拘束。侮辱に満ちた取り調べを受ける。証拠不十分で釈放されたものの、新聞のでっち上げ記事や事実無根の中傷で世間は彼女を「売女、あばずれ」とこき下ろし、自宅に卑猥な電話や脅迫文が殺到する。勤務先はブロナル弁護士事務所だった。休暇中の弁護士夫妻をスキー場で捕まえた記者に「カタリーナは勤勉で分別のある女性だ、なにかの間違いでしょう」と答えると真逆のコメントが掲載された。「このままだと彼女は本当に罰されてしまうわ」と弁護士の妻は危惧する▼カタリーナはアロイスという男と付き合っていた。弁護士の友人で、大学教授の妻帯者だがこれがまたクズ男だ。別荘の鍵をカタリーナに渡したことを後悔し、自分の名前が新聞に出ると破滅だからとビビリまくる。ゲッテンはカタリーナから別荘の鍵をもらい教授の別荘に潜んでいた。警察は張り込んで場所を突き止めゲッテンを逮捕。カタリーナの無実も証明されたが、世間はスキャンダルを面白がる。テトゲス記者は報道の自由を標榜し、受刑中のカタリーナの弟、集中治療室の母親、叔母を取材、得た情報を歪曲して書きまくった。ゲッテン逮捕でケリがついた、もう忘れよう、前を向こうという弁護士や叔母夫婦。しかしカタリーナはゲッテンに単独インタビューを申し込んだのだ。「どうしてインタビューなどやる。キャンセルしろよ」といさめる弁護士に「テトゲスがどんな男か見てみたいの。平気で人を踏みにじる人間を」「君がかなう相手じゃないよ。せめて同席させてくれ」。カトリーナは感謝し丁寧に断る。2人だけの会見の場にテトゲスが現れ、下卑た笑いを浮かべこう言った。「ブルームちゃん、有名になったもんだ。みな俺のおかげだ。熱が冷めないうちにもっとうまい汁を吸わないと。教授を痛い目に合わせてやろう。俺もうちの編集部には頭にきている。君に敬意を表しているのに、あんな記事に仕立てたのだ。とりあえずセックスして理解し会うのはどうかな」。カタリーナは拳銃を取り出し無言で射殺する。二度、三度。警察で彼女は森の中で発見されたテトゲスの同僚カメラマンの殺害も君かと訊かれ「彼も殺さないわけにはいかないでしょう」と冷静に答えた▼テトゲスの葬儀に多くの市民が参列した。葬儀委員長は「テトゲスの命を奪った銃弾は彼だけでなく我々の自由と民主主義に向けられている。根本的な秩序を揺るがす暴力だ。個人的な動機が政治的な暗殺に発展したと思われます」。茶番のような演説をした。カタリーナは刑務所入りだ。彼女にしてみれば度重なるテトゲスのやり口から、一度甘い汁を吸ったネタを絶対手放さないとわかっていた。給料をやりくりし母親の入院治療費と服役中の弟への「コーヒー代」の差し入れ。それらは「あの娘はいつかこんなことをすると思っていた」「姉は危険人物だ」というコメントになっていた。彼の報道によって大衆は煽られ、カタリーナの人格は社会的に破壊されたのである。殺害することは悪だ、というのは簡単だが、それをカトリーヌはアイデンティティと誇りを主張する手段として選んだのだ。原作者のハインリッヒ・ベルは1972年ノーベル文学賞受賞。1970年代、西ドイツで赤軍派によるテロが多発し、シュピーゲル紙にテロに対する冷静な対応を書いてジャーナリズムから袋叩きにあった。「カタリーナ・ブルームの失われた名誉」はこの実体験が元となり、120万部を超えるベストセラーになった。ベルは撮影中現場にフォルカー・シュレンドルフとマルガレータ・フォン・トロッタを訪問し、彼らの演出に意見はさし挟まなかった。どころかベルはカタリーナによってやっと「殺さない訳にはいかない」マスコミという不倶戴天の敵に復讐したのではないか。

 

あなたにオススメ