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特集「幾億の星と幾千の月のシネマ・パラダイス」

2021年12月1日

特集「幾億の星と幾千の月のシネマ・パラダイス4」①
人生、いろどり(上)(2012年 社会派映画)

監督 御法川修

出演 吉行和子/藤司純子/中尾ミエ/藤竜也/平岡祐太

シネマ365日 No.3767

100円玉3枚

四国でいちばん人口の少ない徳島県上勝町、住民の半分が高齢者だ。基幹産業のミカンが冷害で全滅した。わずかな畑から採れる野菜を細々と売る。生活はその日を凌ぐだけのどん底状態だ。その村がハッパ産業で商品名「彩(いろどり)」という、年商2億6000万ビジネスを立ち上げた。全国的に大きく報道された成功例だ。でも本作が描きたかったのはそれではないと思う。薫(吉行和子)、花恵(富司純子)、路子(中尾ミエ)は70代の幼馴染。薫は農家の主婦だ。ワンマンな夫輝男(藤竜也)にひれ伏すように仕えてきた。息子は母に「年寄りらしく」していてくれというばかりで、農業に新しい試みをする意気は皆無。輝男はもっとひどい。痩せた土地で大根を出荷する薫の力仕事を手伝おうともせず「そんなこと、俺のすることじゃない」と酒を食らい、仲間内だけで大きな口を叩くのだけが能だ。過去に養豚、原木シイタケなど新事業に手を出したがことごとく失敗、養殖を始めたウナギは全滅。借金だけが残り山を売るしかないところまで追い詰められている▼小さな雑貨屋を営む花恵。姉御肌のしっかり者で、離れて暮らす息子夫婦と孫の成長を楽しみにしていると明るく振舞っているが、息子夫婦は電話もかけてこず、孫は寄り付かず、あまつさえ店をたたんで「老人ホームに行け」と催促。花恵は寂しい。路子。都会の学校を出て中学校の教師になったことを父親は自慢のタネにしていたが、実は用務員だったことを隠してきた。母親の介護で帰省したものの「1日も早くこんなところは出て行く」と不満タラタラ。薫と花恵の始めたハッパビジネスに鼻も引っ掛けなかった…という具合に、三者とも誰にも相手にされていない孤独な老後だ。農協の若手職員、江田(平岡祐太)が発案したハッパを売る呼びかけに、せせら笑った男たちを無視して花恵が「はーい、やります」と、隣にいる薫の尻を叩いてふたりで手を挙げた。江田は綺麗なハッパを大事そうにハンカチに包んで持って帰った若い女性観光客の姿が忘れられない。きっと出荷先はあるはず。料亭に見学に行けば板前も女将もバカにした▼体良く追い出されかけた料亭で、いつも引っ込み思案だった薫が料理場に駆け込み「料理を見て胸がわくわくしました、こんな思いは今までしたことない、みなさんが料理に使うハッパを教えてください」。女将の手に縋りかき口説いた。「うちは頭、下げられるの、キライや」女将は横を向いて吐き捨てたが、頬をゆるめ「教えてと乞われて断るのはもっとキライや」薫の捨て身の懇請に心動かす。板長はツマモノ(ハッパ)のイロハを教えた。「懐石料理は季節を先取りして四季を楽しむ料理や。だいたいその季節の45日くらい前にツマを合わせる。皿の大きさにも合わせてツマを出す」。薫と花恵は初めてハッパを詰めたプラスチックのタッパを持って「軽いなあ」と感激する。ここは少し説明がいる。彼女らの年齢で最も苦手なものは「重いもの」だ。頭も働き体も動くが、いかんせん、重量のあるものをひょいひょい動かすのは辛い。腰も痛める、膝も軋む。軽くあることは彼女らにとって最大のメリットなのだ。「軽いなあ」花恵も異口同音に繰り返した▼ハッパのパックを小さな台に並べ、我慢強く買い手を待っていた江田の前におじさんが通りかかった。「おい、これ何や」「ハッパです」「何をするモンや」「料理につけてもらうと、料理がいっぺんに引き立ちます」。ふうん、おじさんは手にとって眺めていたが「綺麗や、ナンボや」「300円です」。おじさんが置いていった100円玉3枚を江田は両手で握りしめ、おしいただいた。

 

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