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特集「幾億の星と幾千の月のシネマ・パラダイス」

2021年12月8日

特集「幾億の星と幾千の月のシネマ・パラダイス4」⑧
折り梅(上)(2002年 ヒューマン映画)

監督 松井久子

出演 原田美枝子/吉行和子/トミーズ雅/加藤登紀子

シネマ365日 No.3774

泣きたいのはどっちだ

幾億の星と幾千の月のシネマ・パラダイス4

認知症を発症した義母を息子夫婦が家で看ると決める、それまでの紆余曲折を描く。巴(原田美枝子)は義母・政子(吉行和子)を引き取ってもいいと言う。夫・祐三(トミーズ雅)は「君がいいと言うなら」ということで政子が来た。巴は生花卸業の職場のパート勤務だ。「あんた、大変なことになるよ」と同僚は危惧したが、その時はあまり気にしなかった。認知症の症状が一通りのエピソードを形成する。ごみ捨て場がわからない、というより判断がつかないで、まるで故意のようにご近所の玄関の真ん前に置く。あれがない、これがない、お金を盗られたと騒ぐ。異様な食欲と振る舞いで卓を囲む家族をげんなりさせる。巴は「まだ初期だから」希望を持とうとするが、夫は悲痛だ。「女手ひとつで4人の子供を育てたお袋が、なんでアルツハイマーなんかにならんといかんのか。この先どうなる」泣く。顔を上げ妻に「お前、看てくれるか」。結局は嫁の肩にかかってくる。「他に誰が…」巴も心もとない。政子の長男、次男、長女はさらに寄り付かなくなった▼政子は自分にイライラし、部屋中のものを投げて壊す。巴が帰宅すると嵐が去ったようにひっくり返った家具、鉢植え、衣類。巴は声もなくうずくまる。本人はと言うと、久しぶりに顔を見に来た長女と一緒に彼女の家に行った。それもつかの間、長女から電話。「巴さん、迎えに来てくれる? 手におえないわ。任せるしかないわ」戻ってきた政子は徘徊する。土砂降りの雨の中を巴は探し回る。東京湾の港湾事務所からの電話で、事務所の外に濡れ鼠になって政子が立っていた。「どうしたのよ」とだけ巴は言って車に乗せた。巴は疲れてくる。「パート、辞めた方がいいよ」と夫。巴は切れる。「私に仕事を辞めさせて、介護に縛り付けたいのでしょ!」「たかがパートだろ!」「主婦をバカにするンじゃないわよ。あなたの都合通りいかないわよ!▼政子が自分で選択しようとしている。「私に嫌がらせ?」洗濯物をひったくった巴は失禁しているのがわかった。「これ以上迷惑はかけられないと思って」。身を小さくする政子に息子は怒鳴る。「なぜ早くトイレに行かない!」。夫の言い分は「家で看ると言ったの、キミだろ。だからさっさとどこかへ預ければいいのだよ!」。グループホームに見学に行った。巴は決心がつかない。政子は暴力を振るうようになった。巴の髪をつかんで引きずり回し、突き飛ばし、道路に倒れこんだ巴を近所の奥さんたちが見ていた。ちょうど下校時、現場に遭遇した巴の娘が部屋に閉じこもった母親に声をかけた。「お母さん、私ももっと協力するから」。巴は娘の膝に突っ伏して泣いてしまった。「やっぱり、決めよう」と夫。「(施設に)行けば友達もできるしいいところだ」「日曜日には会いにいくわ」そう説得した。政子はつと席を外し戻ってくると「あんたたちに迷惑をかけるばかり。生きていても仕方ないけど、自分では死ねない。これで殺して」。出刃包丁を差し出した。「俺は母さんに生きていてほしいんだ」。夫は政子にすがってオイオイ泣いた。巴は夫を見ていたが表情は硬い。家のこと万端を嫁に預け、居酒屋で一杯飲んで機嫌よく帰る男は、泣きさえすればすむのか。泣きたいのはどっちだ。

 

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