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令和3年師走のベストコレクション

2021年12月12日

特集「令和3年師走のベストコレクション」③
レッド・スネイク(2019年 事実に基づく映画)

監督 カロリーヌ・フレスト

出演 ディラン・グウィン/アミラ・カサール

シネマ365日 No.3778

ザラの肖像

2014年8月、IS(イスラム過激派)がヤジディ教徒の村を襲撃した。「古代メソポタミアがイラン人、クルド人、アラブ人に分断される前はみな一神教や地母神を崇めていたが、一神教雨や資本主義が浸透し男性文化を押し付けた。戦う女性は昔からいた。バイキングの女性、トルコと戦ったクルド人女性たち」。蛇の旅団に入隊した新兵たちに司令官ロザリン(アミラ・カサール)はそう話した。クルドには2012年設立された女性部隊がある。クルド人、アラブ人、アッシリア人、外国人ボランティアにより構成された18歳から40歳までの約7000人の民兵集団だ。彼女らはヤジディをISの兵士から救出する極めて重要な役割を果たした。「私たちは政府に頼ることなく、自分たちで地域を守る必要がある。政府はISから私たちを守ることができない。私たちは自分たちを、そして皆を守らねばならない」という主張と活動は世界的に注目を集めた▼本作のヒロイン、ザラは平和な村で家族と穏やかに暮らしていた。襲撃にあった日、住民は村の広場に引き出され、改宗を迫られた、拒否した者はその場で銃殺だった。ザラの父親もその1人だ。男と女に分けたトラックで、ザラが着いたのは奴隷市場だ。年齢、身長、体重を聞かれ値段をつけた男が買手に「お買い得ですよ、処女ですよ」と売り込む。ザラは19歳。買ったのは襲撃部隊のリーダーだった。家には妻と妻の弟がいるが、口答えも許されない。ザラの仕事は家事まかないと性奴隷だった。自力で脱出し砂漠を歩き、難民の一行と出会い行動をともにした。難民襲撃に出会い助けてくれたのが「蛇の旅団」だった。連れ去られた弟を見つけ出したいザラは志願する。「蛇」のキャンプは多国籍軍だった。アメリカ、クルド、イスラエル、パレスチナから来た若い女性たち。「私たちの革命に国境はない。世界的、政治的、社会的な革命よ」。志願者の1人が質問した。「男女同権は?」「それもある。女性を解放することが目的よ」▼ザラにどこまで改革の使命があったのかどうかは、わからない。しかし過酷な訓練に加え、自由と平和を強く意思する彼女らは、分け隔てなく勇敢で強く、やさしかった。強化キャンプで焚き火を囲んだ夜、ザラは自分のコードネームを「レッド・スネイク」にすると決めた。「赤はヤジディの大切な色で、みんなは蛇の旅団だから。私の命の恩人よ」。不平等や差別はなぜ生じたのか。「戦争のせいよ」と1人が言った。「違う」とザラは否定した。「戦争のせいならなぜ私は恥じるの? 男は戦争から帰って傷を見せたら英雄だと言われる。でも私は恥ずかしい」。陵辱の日々がよみがえる。「あなたの傷は深い。でもあなたは生きている。立って戦っている。昔から戦争では女が苦しんだ。ここでは私たちが恐れられている。私たちの力よ」。そう励ましたメンバーがいる。恐れられている、とは女に殺されると天国にいけないという言い伝えがイスラムにあり、女は殺してもいいが殺されてはいけないと考えている妙な教えだ▼各地での襲撃、応戦を経てISの主要陣地を落とした。度重なる戦闘で、蛇の旅団も大事なメンバーを失った。ザラも今は彼女らを姉妹と考えている。ある襲撃地に弟がいるとわかった。彼はイスラムの洗脳を受けていた。やり口はひどい。10歳になるかならないかの子供にアラーの神の教えとして自爆させるのだ。小さな体に爆弾を巻きつけた弟の姿に姉は声をなくす。仲間を遠ざけ、弟を2人になり「お姉ちゃんよ、思い出せる?」。弟は感情を無くし無表情だ。そばに寄った姉は小さな声で故郷の民謡を歌った。野原で、小川で、花を摘みながら歌った歌。弟の目に生気が戻り「お姉ちゃん」と呼んだ。ザラは夢中で爆弾ベルトを外した。ザラは村に戻り、クルド人墓地に命を落とした仲間たちの墓を建てた。明るい色で天使が舞う大きな壁画が彼女らの墓だ。平和は訪れるのか。安らぎは、平穏は、それを守れる戦いはいつまで続くのか。確かなことはザラにもうためらいはなく、戦わねば獲得できないものが誰の人生にもある、その時は銃を、武器を取らねばならない。言い忘れたが彼女を買った男は旅団の捕虜となって繋がれていた。ザラを認めた男は「よう、どうだい、女は犯されてもイクのだろ。よかっただろ」卑しい笑いを投げた。ルール違反だとは承知していた、が、彼女は男にナイフを突き立て刺殺したのだ▼言語に絶する戦争の中で、強くなければ生きていけない、生まれ変わったザラの肖像が鮮明だった。

 

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