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特集「銀幕のアーティスト」

2021年12月25日

特集「銀幕のアーティスト13」⑥
永遠の門ゴッホの見た未来(上)(2019年 伝記映画)

監督 ジュリアン・シュナーベル

出演 ウィレム・デフォー/ルパート・フレンド/オスカー・アイザック

シネマ365日 No.3791

聖書に脳を焼かれた男

特集「銀幕のアーティスト13」

ゴッホの残した膨大な手紙と美術史上の解釈をすっぱりと捨て、主要人物とゴッホとの対話によって、画家の内面にアプローチしています。ゴッホという複雑な、思想的な画家を語るには、一人称でも、二人称でも三人称でもない、対話という形が最も適した方法だったのかもしれません。ゴッホの実像は切り口によって多角的に反射するので、定番のいわゆる「ゴッホ伝」は信用できない、というのは言い過ぎとしても、手紙に書き綴ったこと意外に本音はないのかと疑問を持った読者も今までにおられたと思うのです。ほとんどの映画はゴッホの自殺で終わるのですが、最近になって「ゴッホ、最後の手紙」が、画家の死が自殺ではなく、近隣の農家の少年の誤射による事故という一面を掘り下げ、ミステリーのような興奮を与えました。ジュリアン・シュナーベル監督はゴッホの画業や生活に強い影響を及ぼした数人と、ゴッホの対話という架空の設定により、対話を繰り返すことによって、彼が終生の問題とした「なぜ描くか」の核心に迫っています。同じ問答が繰り返されるシーンもありますが、厭わずにゴッホの言葉を聞けば、彼が画業に、ひいては生きることに込めた思いが聞き取れます▼ゴッホ(ウィレム・デフォー)がパリでゴーギャン(オスカー・アイザック)に言う「新しい光を見つけたい。まだ見ぬ未来を絵に描くために。太陽の光で塗った絵だ」「南へ行け。フィンセント」。ゴーギャンのアドバイスを受けゴッホはアルルに来た。待望のゴーギャンとの共同制作も実現した。「平らな風景を前にすると永遠しか見えない。僕にしか見えないのか? 自然を見ると全てを結びつけている絆がより鮮明に見える。エネルギーの振動が、神の声が時々強烈すぎて意識を失う。目覚めると自分がどこで何をしていたかわからない」。ゴーギャン「画家がモデルを必要としない時代が来ている。僕らが見ている自然は人間の頭の中にある。僕らは同じ風景の前に座り別の風景を見ているのだ」。ゴッホは理解されにくい人物だった。彼の台詞を書き出しながら、こういう言葉が日常会話で交わされたら、ほとんどの人が戸惑うと思えました。熱に浮かされたように描くゴッホに対し、ゴーギャンは冷静だった。「もっとゆっくり描け。君の描く絵は早くて塗り重ねていて、絵というより彫刻だ。自分の内面を見ろ、フィンセント」「君はそればかり言う。絵は自然の中にある。それを解放するだけだ」「絵の表面を見てどう絵の具を置くか考えろ。もっと室内で描けよ」「ずっと1人で、部屋で過ごしてきた。だから自分を忘れるため外で絵を描く。抑制などするものか。絵は“行為”なのだ。速く描けば描くほど気分がいい」。2人の会話はすれ違うばかりだった。ゴーギャン「ここにはいられない。すぐ発つ。絵が売れたのだ。僕の評価が確立された。田舎にはおれない。ここは嫌いだ。意地悪で愚かで無知な人間ばかりだ」。ゴッホは絶望して自分の耳を切り落とす。医師「なぜ耳を切った」「友が去ろうとした」「つなぎとめるために耳を?」「僕の中に何かがいる。誰にも見えないものが。恐ろしい。そんな時は自分に言い聞かせる。僕に見えるものを見えない人に見せてやろう。彼らに希望と慰めを与えよう」。ゴッホの答えは抽象的で飛躍し、はぐらかされることが多いのですが、つまるところ彼は人を救うために絵を描き、ゴーギャンは自分を救うために絵を描いた。そう思えました。牧師の息子として生まれ聖職者になろうとして出発したゴッホは、身を捨てて“行為”することに憑かれていた。ゴーギャンは彼にしたら異常としか思えないゴッホの博愛と情熱を「聖書で脳を焼かれた男」と評しています。

 

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