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特集「銀幕のアーティスト」

2021年12月26日

特集「銀幕のアーティスト13」⑦
永遠の門ゴッホの見た未来(下)(2019年 伝記映画)

監督 ジュリアン・シュナーベル

出演 ウィレム・デフォー/ルパート・フレンド/オスカー・アイザック

シネマ365日 No.3792

魂のコスモス

特集「銀幕のアーティスト13」

医師「君は人を混乱させ、絵は君を混乱させる」ゴッホ「僕の絵は僕自身だ」「慰めと希望とは? 人に何を期待する?」「僕が見ているものを分かち合いたいのだ」「なぜだ」僕が見ているものは、生きるとは何かを人々にも感じさせられる」「みなは生を感じていない?」「そうだ」「君の絵を通してそれを実感させられる?」「全くその通り。僕が見ているものを人々と分かち合いたい」。ゴッホには何が見えていたのでしょう。「僕の周りには危険な霊がいる。目に見えないが存在を感じる。霊は僕を脅迫する。僕の心臓を刺しにくる。だから霊を切り離そうとした」医師「そして耳を切ったのか。君が見えている世界は恐ろしいものなのか?」「そうだ。恐ろしい霊が戻ってくる」。医師はゴッホをサン=レミ療養院に送りました。精神病院です▼ある日牧師が訪ねてきた。「君は病院を抜け出し子供に性的虐待を加えたか。アルルの住民は君を追放する嘆願書に署名した」「虐待など一度もない」「君は画家と聞いたが、なぜ自分を画家と思う?」「絵を描くから。描かねばならないから。描くこと以外何もできないから。神に授かった唯一の才能だ」「自分の絵をよく見なさい。傷つける気はないが、この絵は不愉快だ。醜い」「なぜ神は醜いものを描く才能を僕に与えたのだろう。時々全てから遠く離れていると思える」「絵を買う人は?」「いない。だから生活は苦しい。療養所の費用はテオ(弟=ルパート・フレンド)が払ってくれている。裕福でもないのに」「神は君を苦しめるために才能を与えたのか」「そうは思わない。もしかしたら神は時を間違えたのかと思うのだ。未来の人々のために神は僕を画家にしたのだと」「神が間違いを犯したのか」「僕は自分が地上の追放者だと思っている。イエスはこう言われた。目に見えぬものに心をとめよ。イエスも生きている間は無名だった。彼が世に見出されたのは死後30年か40年のことだ。生前は話題にも上らなかった」。ゴッホは退院しパリのテオの家に来たが落ち着かず、テオが田舎のガッシュという医師を紹介し、そこに行く。ガッシュは美術愛好家だった。モデルのポーズを取ったまま「なぜ描く」とガッシュ。「描くのは考えるのをやめるためだ。一種の瞑想かな。僕は自分の内と外にあるすべてのものの一部だ。芸術家とは世界の見方を教えるものと思っていた。今は自分と永遠の関係しかない」ガッシュ「永遠をなんと呼ぶ?」「来るべき時」「君の絵は君から世界への贈り物か」「僕は悲しみに喜びを見出す。悲しみは笑いに勝る。天使は悲しむ者のそばにいる。病気の状態が絵を描くのだ。健康を取り戻すのが嫌になる。人は僕を狂人というが、狂気は最高の芸術だ」。このへんは自分を狂気とみなすことへの自己陶酔が混じってクサイ台詞になっていますけどね。ゴッホには精神疾患があったのか。監督は答えを示さずゴーギャンの言葉を引用しています。「黄色い部屋の壁にゴッホが書いていた…私は精霊、私の精神は健全」。ゴッホの絵に戻ります。あらゆる疑問に対するゴッホの解答は手紙にでも評伝にでもなく絵にしかない。これがゴッホの眼球に映じた風景であり、人物だった。喜怒哀楽を捩りあげて悶える糸杉、傾いた大地には雲が空を覆い、狂ったように鳥が飛び交う。夜のカフェは静けさをたたえ、空の星は魂を吸い取るような光に満ちている。人物画に微笑みも笑顔もない。彼らは不幸か? そうとは見えない。ゴッホがモデルの椅子から解放してくれたら、男は一杯いっぱい引っ掛けるか、女は台所でおしゃべりの続きをする。でもゴッホはそれらの日常を剥ぎ取る。彼らはまるで今目の前を過ぎる一分一刻がこよない人生の賜物であることを確信するように、荘厳までに無口だ。明るい色彩は孤独をうかがわせない。孤独など口にする値打ちもない。孤独もまた神からの授かりものにすぎないと人は知っているくせに、時々は大げさにその授かりものを吹聴するのだ。ゴッホの絵にあるのは清澄な異次元です。ものみな音は絶え、鎮まり、彼の絵を見ながら人はいつか境界を超え、魂の蒼いコスモスに遊泳する。

 

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