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特集「銀幕のアーティスト」

2021年12月28日

特集「銀幕のアーティスト13」⑨
マイ・バッハ不屈のピアニスト(下)(2020年 伝記映画)

監督 マウロ・リマ

出演 アレクサンドロ・ネロ

シネマ365日 No.3794

キャリア再開

特集「銀幕のアーティスト13」

医師の声「指を動かして。手を握って…鉄パイプで殴られたあと、あなたの脳は神経を迂回させるルートを作った。脳からの運動指令が変換され、脳は話す機能を使う言語中枢を使うことにした。他の部分だったらよかったのに」。レストランでジョアンが食事している。同じテーブルに知的な女性が座る。ジョアン、早速話しかけるが途中で途切れる。心配する女性に「私は2分以上話せないのだ。脳の神経回路に問題があってね」。この女性が妻となるカルメン弁護士だ。話すか、弾くか、どっちを取る。ジョアンは踏ん張る。ピアニストは言葉なしでも表現できる。彼は「左手のためのピアノ協奏曲」に活路を見出した。奇跡のカムバック。左手のコンサートは大成功を収め「年50回の公演」を企画した。しかし酷使した左手は進行性の収縮を示してきた。「小さい結節が手のひらに出現して、関節の動きが制限され指が曲がって伸ばせなくなる」医師は告げた「治療できません」。「ピアノはもう弾けないんだ」。しょげ返るジョアンにカルメン、しゃらしゃらと「ピアノは、ね」(ピアノ以外にすることあるでしょって感じよ)。ジョアンは指揮法を学び始めた。不屈の夫は不屈の妻あって、なのだ▼オーケストラを作るためジョアンは企業の支援を要請しに回る。サンパウロ州工業連盟がオーケストラの団員65人のためのスポンサーとなってくれた。ジョアン、男泣き。ジョアンのバッハ交響楽団は1100万人以上の前で演奏するまでになった。ジョアンの尽力で設立されたバッハ交響楽団基金は数千人の若者に演奏家への未来を開いた。若い頃ののぼせ上がりは消え、ジョアンは音楽への情熱と価値を後進に託すべく、81歳(2021)の今も活動している。ジョアン自身は自分の音楽や芸術について、これといった言葉は残していなかったと思うが、彼の先生がこんなことを教えていた。「バッハが作曲した時から200年以上すぎ、我々には彼が何を感じて曲を作ったか知る由はない。何もない空間に花瓶が形を与えるように、音楽は静寂に形を与える。写真にネガがあるように、楽譜にもネガがあるとしたら君は何を弾く?」「休符を」「そうだ。君に奏でてほしいのは静寂だ。それによって君だけのバッハが生まれる。大切なのは音符じゃない。聴き手の心を強くかきたてることだ」。哲学的ね。白状するとよくわからなかったのだけど、音楽の源泉は静寂ってことか?▼それとジョアンがピアノ教室に一緒に通っていた女の子が、ジョアンの弾く手元を見て言うのよ。「右手と左手が別々に動くのね。どっちも知らない者同士みたいに」。少年ジョアンは彼女の一言をよく覚えていた。後年、右手が損傷した時、彼に左手のインスピレーションを与えたのは少女の素朴な感動である。2020年9月、ジョアンは自身のインスタで両手にバイオ工学による手袋をつけながらピアノを弾く姿を公開した。ブラジルの工業デザイナー、ウビラータ・ビザーロ・コスタが設計した。泣きながらピアノを弾くジョアンの姿はツイッターに投稿され30万回以上の再生となった。ジョアンはピアニストとしてのキャリアを再開した。感動したわ。欲をいえばジョアン一辺倒でなく「ピアノは、ね」と言ってのけた女房カルメンを、もっと描いて欲しかったわ。

 

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