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特集「令和4年新春ベストコレクション」

2022年1月5日

特集「令和4年新春ベストコレクション」⑤
スパイの妻(上)(2020年 社会派映画)

監督 黒沢清

出演 蒼井優/高橋一生/東出昌大

シネマ365日 No.3802

薄情な女とややこしい男

特集「令和4年新春ベストコレクション」

ヴェネツィア国際映画祭で最優秀監督賞を取った映画ね。審査委員長はケイト・ブランシェットでした。どうよかったのか聞いてみたいわ。とても高評価なのだけど主人公2人の事の顛末に戸惑ったのは私だけ? 貿易会社の社長・福原優作(高橋一生)と妻・聡子は裕福で幸福に暮らしている。外国と取引し国際情勢にも明るい優作は、豪勢な洋館で室内調度も衣服も全て洋風。ハイソな暮らしだが時代は1940年。聡子の幼馴染で神戸憲兵分隊に分隊長として赴任した津森泰治(東出昌大)は、第二次世界大戦間近の不穏な情勢だから「あなたたちの“普通”が他の人たちの批判を招くこともある」と、もう少し日本人らしい生活様式に改めた方がいいと忠告する。優作は気にもかけない。優作は満州出張するが2週間の予定を遅らせて帰国する▼優作の甥・文雄は優作の会社に勤めていたが辞職し、小説を書くため有馬温泉の旅館にこもって執筆する。彼を憲兵隊が監視するのは満州から一緒に連れ帰った女性に関係ある。聡子は優作との仲を疑うが彼はきっぱり拒否。聡子は文雄を有馬に訪ね事実を問い詰めるが、彼が抱えている秘密は男女の仲ではなく国家機密だった。文雄は封筒を聡子に預け「叔父さん以外の誰にも渡さないで」と念を押す。聡子は夫に事実を教えなければ封筒を渡さないと迫り、夫は満州でペスト菌の生体実験にされた死体の山を見たと言う。連れ帰った女性は看護師の草壁弘子。軍医の愛人で実験ノートを隠し持ち、そこには捕虜を使った克明な実験経過が記されていた。優作は絶対に許せないと憤り「この証拠を国際政治の場で発表すれば、戦争に消極的なアメリカ世論を反日へ導き、アメリカが参戦すれば日本は負ける」という筋書きを書いた。「それではあなたは売国奴では?」という聡子の問いに「僕はコスモポリタンだ。忠誠を誓うのは国じゃなく万国共通の正義だ。だからこのような不正義を見逃すわけにはいかん。僕らの同胞が満州で悪魔の所業を繰り返している。何もしないわけにはいかん」「あなたを変えたのはあの女です。国際政治がどうとか、私の知ったことじゃありません」。このあたりまではわかりやすかったのですけど▼批判的だった聡子が優作と同一歩調をとると決めたのは、彼が持ち帰った記録映像で実験の事実を見たからだ。ひどい! 夫の信念は正しい。彼についていくわ、スパイの妻だろうがなんだろうが、あえて汚名と危険を引き受けるわ、となります。で、彼女が何をしたかというと、実験ノートを憲兵隊の津森に渡しちゃうのです。それによって文雄は連行され生爪を剥がされるむごい拷問を受けるが、優作は無関係だと徹底的に関与を否定した。そうそう、看護師は有馬で殺されるのですが、犯人は旅館の主人だった。下手人が上がったこともあり、捜索は打ち切り、優作の嫌疑は晴れた。優作「君はひどい女だ」と聡子を責めるが、いいえ、本当に重要なノートはもう一冊の方ですと同じ内容を英文で表記したノートを見せる。これと克明な記録映像があればアメリカに持って行く有力な証拠になる。わたし、文雄さんは何があってもあなたを裏切らないと信頼していた…それ都合よすぎない、というよりちょっと薄情じゃない? 夫から嫌疑をそらすために文雄を当て馬にしたってことでしょ▼アメリカは対日石油の輸出を禁止する経済制裁に出た。アメリカに行って不正義を告発するためには亡命しかない。所持品を現金に換えアメリカへ。優作は危険回避のため二手に分かれようと提案する。聡子は記録映像を持って貨物船に乗り優作は英文ノートを持ち上海で残りのフィルムを持つ貿易商に会って買取り、その後サンフランシスコで合流する。聡子は一緒でないとイヤだと言い張るが「2週間もすればアメリカで会える。万事万端手配は整っている」と優作は妻を安心させた。これがおかしいのよ。聡子のいう通り何があろうと離れないのが“one team”じゃない。案の定、聡子は騙されたと知る。貨物船に隠れた途端、憲兵隊が「密航者がいる」と乗り込む。チョンバレだったのだ。憲兵隊に連行された。津森は「善良な市民から通報があった」。聡子は夫の行動がいかに正しいか、それを証明しようと関東軍が満州で行った非道な生体実験のフィルムを映写させるが、映っていたのは夫が会社の余興で上映したロマンス映画だった。ショックのあまり聡子は虚しく笑い転げ「お見事」と叫んで失神する。何が「お見事」なのだ? 聡子という薄情な女と優作というややこしい男のおかげで、よくわからないモヤモヤが立ち込めるのだ、本作には。

 

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