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特集「令和4年新春ベストコレクション」

2022年1月6日

特集「令和4年新春ベストコレクション」⑥
スパイの妻(下)(2020年 社会派映画)

監督 黒沢清

出演 蒼井優/高橋一生/東出昌大

シネマ365日 No.3803

受賞おめでとう

特集「令和4年新春ベストコレクション」

気が狂ったとみなされた聡子は精神病院にいる。1945年3月だ。戦況は日ごとに厳しく病院も爆撃を受けた。市街は硝煙の立ち込める焼け野原だ。海岸を彷徨いながら聡子は「これで日本は負ける。戦争は終わる。お見事です」と叫ぶ。また「お見事」か。続く字幕はこうだ「1945年8月終戦。翌年優作の死亡が確認された。死亡報告書には偽造の形跡があった。数年後聡子はアメリカに渡った」。優作の計画は、渡航を垂れ込み聡子を捕らえさせ、軍の監視下に置く方が戦時の市街より安全と考えたのだろう。それにしても手の込んだことを考えつく男だわ。聡子が渡米したことはアメリカで落ち合うためと思われるが、じゃ「告発」の大義名分はどこへ行ったのよ。生体実験の英文資料も記録映像についても映画は触れない。死亡診断書が偽造らしい、優作は生きている、聡子はアメリカに行った、あとは好きに考えてくれってことね。しまりの悪い映画だわ。奥歯に物が挟まったような、カンヌのお家芸みたいなエンドのくくり方は、今後日本映画の主流になるのでしょうか▼蒼井優はふっくらして、貿易会社の社長のなんの不足もない若い奥さんがよく似合っていた。夫の正義なんかどうでもいい、とは言わないけど実はさほど実感がなくて、残酷なフィルムを見て覚醒する、のだけど、彼女が白状しているように、本音は夫と一緒にいることがいちばん大事だった女性だ。思想的に目覚めるなんて(ホンマかいな)と思った。優作という世界に忠誠を誓うコスモポリタン男子も、外国との取引と見聞によって国際感覚を身につけた、それを具体的に示すのが洋館の住まい、洋式の生活様式というわけ? チャラくない? 高橋一生の大げさなセリフまわしには閉口した。この人、テレビで(例えば大河ドラマ)などで見た限りでは凛々しい役者ぶりだったのに、なんでこう違ったのかしら。それも本作で首をひねった理由のひとつ。文雄君。生爪剥がされる拷問にさらされても叔父さん(優作)の名を一言も口にしなかったのね。偉いと思うけど、そんな律儀な性格を聡子に当て込まれたのは気の毒というしかない▼憲兵神戸分隊の津森分隊長。優作は妻に「彼は君に惚れ込んでいるから神戸勤務を志望したのだ」と言っている。聡子はそれがわかっていて六甲山の氷を採りに来た津森を、優作の留守中家に呼び「おいしいウィスキーを一緒に飲みましょう」と声をかける。津森はカチカチの男だが、聡子が戦時の情勢に巻き込まれて不幸にならないよう、というより気に食わない優作の巻き添えにならないよう、なにくれと気を回す男でもある。本作では誰がいちばんの魅力あるワルだろう。ハムレット、イアゴー、シャーロック…スーパークラスの彼らの遺伝子が見当たらない。あえてあげれば、聡子が夫に裏切られたと悟った場面の直後に、小さな船で手を振りながらしれしれと遠ざかっていく、白塗りの能面みたいな優作か。ノリがイマイチだったけど、ともあれヴェネツィア国際映画祭最優秀監督賞、おめでとう。

 

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