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特集「令和4年新春ベストコレクション」

2022年1月15日

特集「令和4年新春ベストコレクション」⑮
万引き家族(上)(2018年 家族映画)

監督 是枝裕和
出演 リリー・フランキー/安藤サクラ/松岡茉優/樹木希林

シネマ365日 No.3812

やさしさと偽りと

やるせない映画だ。社会の隅においやられた、もしくは自らを追い込んだワケありで孤独な登場人物たちが、慣れ親しんだ疑似家族を解体され、それぞれの人生に向き合う。東京の下町。底辺のボロ家で肩寄せ合う柴田一家。治(リリー・フランキー)と妻信代(安藤サクラ)、治の母初枝(樹木希林)は独居老人ということになっており、同居人の存在は秘密である。治と信代は殺人の前科がある。信代が働いていたバーの常連客が治で、暴力を振るう信代の夫を殺し、信代は彼の正当防衛を主張し治は執行猶予となった。同居人には子供が2人いる。翔太とユリだ。翔太は信代が車上狙いの車の中で置き去りにされているのを見つけ連れかえった。ユリは翔太と治が仕事(万引き)の帰路、団地のベランダにほうり出され、凍えかかっているところを哀れに思い家に引き取った。「それって誘拐じゃない?」とこれも同居人の亜紀(松岡茉優)が言うが、「身代金も要求しないから誘拐じゃない」と信代。彼女はユリの体に虐待の傷を見つけ、やさしく世話する▼亜紀は初枝の前夫の息子夫婦の子である。実家で出来のいい妹にコンプレックスがあり肩身が狭くて家出した。治は工事現場の日雇い。信代はクリーニング工場のパートタイマーだ。多少の稼ぎはあるものの主として頼る低収入は初枝の年金である。日銭が追いつかない時は、治と翔太が万引き。初枝はパチンコ店で隣の客の玉をネコババ。信代は洗濯物の客のポケットを探り、かすめ取る。台所と部屋が二間。翔太は押入れが自分の居場所だ。猫の額のような空間に初枝の亡夫の小さな仏壇があり、亜紀の机があり、クローゼット(と言えるのかどうか)には、誰の服かわからない衣類が雑多にかかり、畳が見えないほど散らかっている。食事はちゃぶ台で取る。治と翔太はカップラーメンにコロッケを浸して食べるのが好物。鍋の時は早い者勝ち。「白菜ばっかりだ」。翔太が文句を言うと「肉が染み込んでうまいのだよ」信代が叱る。ユリを親元に帰すつもりだったが、家の外で聞こえる子供の泣き叫ぶ声に治と信代はユリを連れて戻る。今さら1人増えたところでどうってことはない。信代は風呂(狭くて古い棺桶みたいな湯船)でユリの体を洗ってやりながら自分の傷を見せ「同じだね」と抱きしめる。行きはぐれた動物が迷い込み、体を温めあっているような家族だった。お互いにやさしく、干渉せず、疎外者同士の思いやりがあった。しかし学齢に達しても翔太は学校に行っていない。ユリは失踪者として警察が探し始めた。かりそめの家族の平和も平安も続くはずはなかった。ある日ユリと万引きした翔太は店主に呼び止められた。体をこわばらせる翔太に、年老いた店主は「これ、持っていけ」と店の菓子を与え「妹には万引きさせるなよ」と言って奥に入った。諒太は治と信代を「父さん、母さん」と呼ぶ、ことになっている。「店にあるものはまだ誰のものでもないから(万引きしても)盗みじゃない」「家で勉強ができないやつが学校に行くのだ」という治の屁理屈を額面通り受け取っていたが、ある日車上狙いをする治に「その車は誰かのものだろ。盗みだろ」と言う。少年期の鋭敏な感性が、自分たちのコミュニティの歪みにピリピリと針をたてた。

 

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