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特集「令和4年新春ベストコレクション」

2022年1月16日

特集「令和4年新春ベストコレクション」⑯
万引き家族(下)(2018年 家族映画)

監督 是枝裕和
出演 リリー・フランキー/安藤サクラ/松岡茉優/樹木希林

シネマ365日 No.3813

心安んじる場所

スーパーでユリの万引きが見つかりそうになった。翔太は警備員の注意をそらそうと、わざと商品の棚を崩しミカン袋を抱えて逃げた。挟み撃ちにされた翔太は陸橋から飛び降り足を折って入院。一部始終を見届けたユリは治たちに訳を話しに家に戻った。一家は逃走を企てるが警官が踏み込んで捕まり、柴田家の一部始終が洗いざらい表面化した。彼らは急死した初枝を家の床下を掘って埋めていた。信代が供述する。「私が1人で全部やりました」「お年寄りを捨てて?」「捨てたンじゃない。誰かが捨てたのを拾ったのです。捨てた人、他にいるンじゃないですか」。治に「子供に万引きさせて悪いと思わなかったか」「他に教えられるもの、ないのです」「男の名前の“翔太”はあなたの本名ですね」亜紀に「ご両親がいるのになぜ初枝さんと?」「おばあちゃんが一緒に暮らそうと言ってくれたからです。私の両親は私がおばあちゃんと暮らしていること、知っていたのですか?」。初枝は亜紀の実家から慰謝料としていくばくかの金を受け取っていたと聞かされ、お金のために自分を置いていたのかと亜紀は悲しむが、初枝はその金を積み立てていた。それを知っていれば違う見方ができたろう▼1年後、翔太は施設に入り学校に行き成績がよかった。治は信代に頼まれ、翔太を連れて面会に行った。「悪いな、俺の分まで罪をかぶってくれて」と俯向く治に「あんたは“前”があるから5年じゃきかないよ。いいのよ、あたし、楽しかったからさア。これじゃお釣りがくるよ」「僕が捕まったから…」そう呟いた翔太に「あんたを拾ったのはね、松戸のパチンコ屋だよ。車は習志野ナンバーの赤のヴィッツ。その気になれば本物の父ちゃん、母ちゃん、見つかるよ」「お前、そんなこと言うために翔太を連れて来いと言ったのか」「うん。もうわかったでしょ。うちらじゃ、駄目なンだよ」寂しげに信代は言った▼冬になった。翔太は治の独り住まいの部屋でコタツに向き合い、ラーメンにコロッケを浸して食べている。「泊まっていこうか」と翔太。「怒られるだろ」「今から帰ったって一緒だよ」「みろ。雪だ。積もったな」。2人は雪だるまを作った。布団に入って翔太が訊く。「僕が捕まった日、僕を置いてみんなで逃げようとしたのかい?」。治は認め小さな声で「父さんさあ“おじさん”に戻るよ」。翌朝は晴れた冬空だった。バスで帰る翔太に治は手を振り追いかけていくが、翔太は振り向かなかった。雪だるまは溶けていた。ユリは母親の元に戻り虐待が繰り返された。ユリが母親に引き取られたと聞いた信代は「戻りたいって言ったのですか、あの子が?」担当官「子供には母親が必要なのですよ」「母親がそう思いたいだけでは? 産んだらみんな母親になるの?」「あなたはなぜ誘拐したの?」「憎かったのかも、母親が」「子供2人はあなたをなんと呼んでいました。ママ、お母さん?」「なんだろね…」信代の頬に涙がこぼれ落ちた。ケイト・ブランシェットはカンヌ国際映画祭の審査で(彼女が審査委員長だった)「この席にいる俳優の審査員の方で、今後泣くシーンがあった時は、私も含めて“信代”を真似したと思ってください」と激賞した▼罪があり、やるせなく、社会の隅っこを選んで生きていく人たち。どう言えばいいのか。ふと口をついて出た言葉は「まあ、いいか…」。人は家族だ、結婚だ、責任だ、職業だ、親子だ、男だ、女だ、世間だ、いろんなステージに立つが、巡ってくるそのひとつひとつに、しがみつかねばならぬものでもあるまい。深い悲しみと諦めのうちに、「まあ、いいか」と思うしかない救いもあるのだ。でもそれは捨てたものじゃないのだろう。孤独であろうとなかろうと、家族であろうとなかろうと、一緒にいる時間が長かろうと短かろうと、誰にでも心安んじる場所を人生はきっと用意してくれているのだから。

 

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