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特集「美しい虚無-妄想映画の魅力」

2022年2月6日

特集「美しい虚無14」⑥
インテリア(下)(1979年 家族映画)

監督 ウッディ・アレン

出演 ジェラルディン・ペイジ/ダイアン・キートン/E .G.マーシャル

シネマ365日 No.3834

温かい思い出もあった… 

ナレータが母親のお気に入りなのは、早くから文筆の才で世に認められたからだ。完璧主義の母イブはそれがことのほか自慢だった。父親のお気に入りはジョーイで、いつも2人は朝食の席に遅くまで残り、天気とかどうでもいいことを大切そうに話していた。繊細な感性の子で、三女フリンに言わせるともろに「母親の被害を被った」らしい。でもね、どこの家族にも何人か子供がいれば俗に言う、父か、母の「可愛い子」っているわよ。男兄弟ばかりの一人娘とか、女姉妹ばかりの一人息子とか、父あるいは母と相性のいい子供がいるし逆もあるわよ。それでみなスポイルされるかというとそうでもないでしょ。どこかでバランスを取っているのが家族という複合体なのよ。イブは諸悪の根源みたいだけど、それを言う前に特にお父さん、ちょっといじけ過ぎじゃない? ギリシャでパールというダイナミックで情熱的な離婚歴2度の女性と出会い、帰米するなり結婚。娘たちも呆気にとられ「パパのお金目当てよ」とか盛んに警告を発するが、63歳になった男に何を言っても無駄▼パールもイブもどこか憎めないわ。イブみたいな女性専制君主がそばにいれば周囲の人間はかなわない? そうとばかりは限らないでしょ。妻に思い切り腕を振るわせるために、家事諸般の処理を一手に構え、仕事に精励させた高群逸枝や大庭みな子、三浦綾子のご夫君たちはどうなのよ。愛情の問題だ? そうでしょうとも、彼らは妻に拮抗する充分な強さを持っていたのよ。娘たちもグダグダ言う前にお母さんの強さを見習いなさいよ。パールがまたユニークで、見た目は陽気で豪快だが娘たちに気をつかい、一緒にダンスを踊る時はもじもじと気恥ずかしそうに手を差し出す。ギリシャの肉食系女子の赤いドレスが、落ち着いて調和のとれた、でも暗いインテリアの中で唯一色彩を放つ。父の結婚式に、母に気兼ねしながらも参列した娘たちは、式後の空虚なパーティーでひたすら落ち込む。その夜、寝静まった家にやってきたイブは、夜明けの海に入水する。ジョーイが気付いて救出しようと海に入るが荒波に巻かれて近づけない。追ってきた夫がかろうじて妻を捕まえるがイブは波にさらわれてしまった。浜辺でジョーイに蘇生法を施して息を吹き返させたのはパールだ。母の葬式のあと娘たちは思い出のビーチハウスにきた。ジョーイが書き記す。「少ないながら温かい思い出もあった。美しかった母。父と盛装で夜会に行った。レナータの母への憧れ。彼女にとって母はミューズだった。幼いフリンが喜んだクリスマスツリー」書かずにはおれない心揺さぶられる家族の情景。3姉妹はこもごもの思いで海を見つめた。「海は静かね」「ええ、平和ね」…ここで終わらせるのがいかにも厭世家のウッディ・アレンらしい。これが「若草物語」のオルコットとか「自負と偏見」のジェーン・オースティンだったら「で、あなたたち、これからどうするの」と問いを投げかけ「自信を持って自分と向き合うのよ」とか、「ヘタレの旦那がいようと端役の女優だろうと、イブだったらかまっちゃいないわよ」とか、退屈な説明を施すのだけど、ウッディ・アレンというイヂワル爺さまはそんなことしない。あくまで美しい虚無と平静の中に放り出すのであります。のちの彼の映画「男と女の観覧車」でも同じエンディングを用いているわね。

 

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