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特集「神も仏もない映画」

2022年2月28日

特集「神も仏もない映画6」⑨
ベーゼ・モア(2000年 社会派映画)

監督 ヴィルジニー・デパント/コラリー・トラン・ティ
出演 カレン・ランコム/ラファエラ・アンダーソン

シネマ365日 No.3856

劇的な反転

映画から夢やロマネスクや愛を排除したら、こういう作品になる。ヒロインはムニュ(ラファエラ・アンダーソン)とナディーヌ(カレン・ランコム)。ムニュは元ポルノ女優で今は無職。バーテンの兄に小遣いをせびって放埓な生活をしている。ナディーヌは娼婦。ルームメイトがいる。怠惰なナディーヌに口うるさく説教する。口喧嘩が高じてナディーヌが彼女を絞殺する。ムニュはレイプのアザを見とがめた兄が「お前は平気か、このアバズレ」といった一言が気にいらず衝動的に兄を射殺する。お兄さん、妹思いなのにね。終電も去った深夜、駅近くで2人はすれ違う。ナディーヌが「朝まで電車ないよ」と話しかけた。ムニュ「あんた、どこまで行くの」「パリの方かな」「運転できる? できたら車、かっぱらう」。ナディーヌ、運転しながら「パリで誰かと?」「誰とも。あたし、やばいんだ。あんた、運が悪かったわね。海が見たい。連れてって。車はあげる。ガソリン代も」。海へ来た。ムニュ「車あげるよ。消えてもいいよ」ナディーヌ「食事する。あんたは」「さあ。一緒に食べようか」▼気があった2人はあてもなく車を出す。夜の街角で車を停め「カモが来た」。キャッシュディスペンサーで現金を引きだしたキャリア・ウーマンふう女性を脅し、金を引き出させたらその場で射殺。逃走用の車を盗み追いかけてきた男性を轢き殺す。銃器店では店主を襲って銃を奪い、行く先々で男を誘惑して殺害する殺しのロードムービーだ。指名手配されたが臆する様子もなく、「悪魔の声に従ってやりたいままに」行動する。海辺の豪華なホテル。彼女らは酒を飲むか、ヤクを吸うかしかしない。「何も起きないなんてヘンね。つまり、ホテルでのんびり過ごすなんて、うまくいきすぎ」とナディーヌが言えば「弱気な考え方はダメ。ジャックはコーラなしでハードにやるのよ」(ジャック・ダニエルをストレートで飲めという意味)▼ミニュが何気にこう話しかけた。「飛び降りと焼身自殺について考えた。あんたの約束がすんだら(ナディーヌがヴォージュで人と会う約束がある)紐なしバンジーをやろう。私らがまだ逃げているなんて奇跡だよ。ド迫力のエンディングにしよう」「飛び降りる時、私の背中を押してよね。飛ぶ勇気ないから」とナディーヌ。その後、アンケート調査員になりすまし、金のありそうな家を訪問。現れた男性を襲い、あっさり殺して金を奪う。ガススタに来た。「コーヒーあるかも。もしかしてサンドイッチも」。マニュが買いに降りた。銃声が何発か聞こえた。店に走ったナディーヌが見たのは射殺死体となった店主とマニュだ。ナディーヌは湖のほとりでマニュを火葬する。「一緒にいよう」と言ったマニュの声が聞こえた。「くそ、ボロ泣きするなんて」。ナディーヌは銃口をこめかみに当てたが撃てなかった。追ってきた警官隊が取り押さえたのだ。暴力と殺人とセックス。しかしマニュが「ランチ、なに食べる?」とでも訊くように、死に方を問うところに澄んだ透明感があった。彼女らにとって悪は異端でも異次元でもなく「平穏な日常のひとつ」だった。世の中とは悪いことが起こると決まっている場所なのだ。彼女らはそれをペシミスティックに捉えるのではなく力を得るテコとした。辟易するほどの悪徳を描きながら力強いのは、彼女らの世界観をネガからポジへ劇的に反転させた監督の腕力による。

 

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