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特集 LGBTー映画にみるゲイ

2022年3月2日

特集「映画に見るゲイ15」339
ゴッズ・オウン・カントリー(上)(2019年 ゲイ映画)

監督 フランシス・リー
出演 ジョシュ・オコーナー/アレック・セカレイア

シネマ365日 No.3858

「身から出た錆び」の男

映画に見るゲイ15

いけ好かない主人公だわね。ジョニー(ジョシュ・オコーナー)のことよ。大学に入っている高校の同級生が帰省した、と言っているから彼も同じ年頃でしょう。若い時分はこんなものだよ、と言ってすますにはひねくれすぎているわ。実家はヨークシャーで牧場を経営している。目の前の荒野は地平線まで何もなく、空が広く雲が流れるさまは美しいというより壮絶だ。若い働き手はジョニーだけ、父は頑固で仕事を任せない。思うようにできないジレンマで息子は毎晩酒を呑み歩き、帰ってはゲロし、行きずりの男とセックスする荒んだ生活。父に頭を押さえつけられている腹いせか祖母に「シャツは? 靴下は?」いちいち身の回りの世話を言いつける。羊の出産期を迎え臨時雇いを募集した。唯一の応募者がルーマニアの季節労働者ゲオルゲ(アレック・セカレイア)だった。ジョニーはゲオルゲをこき使うがいやな顔もせず、テキパキと羊の世話をする▼生まれて息をしていない子羊を、ジョニーは「無駄だよ」と見殺しにしようとするが、ゲオルゲは人工呼吸し、枯れ草で体をこすり、手で撫でさすって息を吹き返させる。やさしいだけではない。「ジプシー」と蔑称で呼ぶジョニーを地面に引きずり倒し「今度そう呼んだらただでは置かない」と凄みを利かせる。羊の乳を搾ってチーズを、祖母が留守をしたら代わりにうまい料理を作る。恋は思案の外というが、こんなスパダリ(スーパーダーリン)が、なんでジョニーみたいな性格の悪い男を愛するのか謎である。ゲオルゲが初めて牧場に来た日、牛小屋を見せ「クソ溜めだ。ここに来たことを後悔するぞ」。前向きな姿勢がどこにも見当たらぬ男で、牧場の後継者とは言いながら運営の知識も動物の世話も、ゲオルゲより格下だ。ジャケ写にこうあった。「神の恵みの地と呼ばれるヨークシャー地方。愛が生まれる瞬間を壮大な映像美で綴った傑作」だから、どこが愛の生まれる瞬間かなあ〜と目を凝らしていたのよ。するとある朝ジョニーが排尿するゲオルゲを見てつかみかかり、引きずり倒してゴロンゴロンしているうちに突入する。強姦では? いいや、ゲオルゲもその気になっていたから合意でしょうね。つまり彼らの関係は理解だ、好意だ、という前にワイルドな行為ありきで「一緒にいたい。離れられない」恋愛の情は、後から生じてきたみたい。後でも先でももちろんいいのですけど▼父親が脳卒中で倒れた。一家の大黒柱は名実共にジョニーになる。「このままでは牧場は潰れる。なんとかしないと」とジョニーはジョニーなりに悩み、人手がいるだろうから滞在を延期しようというゲオルゲの申し出を喜んで受ける。心身ともに幸福な状態が訪れた。「考えた。このまま牧場に残らないか。いい考えだろ」とジョニー。「牧場は今のやり方では続かない。このままではダメになる」。「残れ」というのが「求婚」の代わりのようにジョニーは言ったが、もともと手癖の悪い男で、バーで出会った男の流し目にその気になり、早速トイレに移った。ゲオルゲは田舎では白い目で見られる移民である。彼を指差すように見るバーの客たち。個室でジョニーが呻く声を聞いて彼は幻滅する。「ゲオルゲ? 出て行ったよ。お前のせいだろ」とお見通しの祖母。ジョニーにしてもゲオルゲが必要だったのは、愛だ、恋だ、もさることながら牧場経営の彼のスキルだったのでは。それもおじゃんになりそう。ことここに至ったのも親父が頑固だ、ヘチマだという以前に、彼自身が仕事に情熱もなく、家畜に注ぐ愛情もないからよ。死産だった子牛の体を蹴飛ばすような男だもの。「身から出た錆び」よ。

 

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