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特集 LGBTー映画にみるゲイ

2022年3月7日

特集「映画に見るゲイ15」344
彼が愛したケーキ職人(下)(2018年 ゲイ映画)

監督 オフィル・ラウル・グレイツァ
出演 ティム・カルクオフ/サラ・アドラー

シネマ365日 No.3863

ケーキは無敵

アナトは店を再開した。トーマスのレシピを守り客足が戻った。「カフェ・クレデンツェ」のホームページを検索したアナトは、ケーキを焼いているトーマスの画像を見た。ベルリンに飛んだ。探し当てた店の前に立つ。トーマスが出てきた。自転車で出かけるみたいだ。近づかず、声もかけずアナトは見守る…▼母ハンナが重要な役割を担っています。彼女はたぶん、トーマスが息子の恋人であることに気づいていた、ドイツ語も喋れたし、コチコチの長男(アナトの義兄)と違って、国際間でビジネスをやるオーレンは感性が柔軟だった。ハンナはそんな息子が気に入っていたし、トーマスの人柄を知って息子が愛した人物に安心した。でないと「息子の部屋を見たい?」なんて勧めませんよ。アナトもいわば恋敵だったトーマスに惹かれていく。真面目で誠実、仕事熱心、腕に間違いのないケーキ職人。こう言っては身も蓋もないけれど、彼女はまず人物より先に、トーマスのケーキ作りとその味を信頼したに違いない。トーマスもまた、アナトのカフェで初めて注文したサンドイッチで彼女を理解する。「具は何?」「イスラエル産の白いチーズにオムレツとキュウリ」平凡極まるレシピだったがうまかった。トーマスがお土産用だとオーレンに勧めたのは「レーズンとケシの実のパンとシナモン・クッキー」。ハンナがお持ち帰りにトーマスに持たせたのは「ナスにチーズとバジルの入った」ドイツの郷土料理▼トーマスが顔色も変えず引き受けた30人分のケーキ5種類は「黒い森」「アプリコット入りケーキ」「アップルパイ」「シュトロイゼル」「チョコロール」。粉をこねる、生地を延ばす、焼く、スポンジを飾る。スピードある一連の手ワザ、流れるような段取り、繊細で細やかな手と指の動きに見惚れる。ケーキ職人のメカニックなまでの技量が、トーマスの数少ない台詞を補って余りあります。清潔なキッチン、整列した調味料、磨き上がった器具、そこはトーマスの聖域だった。チョコレートを塗り上げ、白いクリームの層にスプーンを入れ、無言で頰張る客の恍惚感。思わずにはいられない「美味しいケーキが食べたいなあ」。アナトはケーキを、いやトーマスを追いかけました。間違いなく彼女はトーマスとよりを戻すわ。妻と子を捨ててまで一緒になるなんて、けしからん夫だったけど、もう死んじゃったのだし許してあげよう。夫の愛した男は一生美味しいケーキを作ってくれる男だ。食い意地の張ったことばかり書いて申し訳ないけど、どんなトラブルも彼のケーキは解決しそうだ。そんなことを考え出すと(あとはお任せ)のラストが俄然、明るくなりました。「ショコラ」だってそうだったでしょ。ジュリエット・ビノシュの作るチョコレートが、北のうらぶれた村のしょぼくれた住人を一挙に活性化する▼とすると、本作はゲイで始まった物語だけど、結局は相手が男でも女でも、異種民族間の差別も何のその、ラストの突き放した開放感は、愛は(さらに言えば)美味しいケーキは、男女性別国境人種を問わぬ、まさに無敵だって言っている映画よ。

 

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