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特集「ザ・クラシックス」

2022年3月19日

特集「ザ・クラシックス10」①
傷だらけの栄光 (1956年 事実に基づく映画)

監督 ロバート・ワイズ
出演 ポール・ニューマン/ピア・アンジェリ/アイリーン・ヘッカート

シネマ365日 No.3875

ボクシング映画の草分け

特集「ザ・クラシックス10」

役の巡り合わせにも運不運があります。主役をジェームズ・ディーンに予定していた本作が、彼の事故死でポール・ニューマンに回ってきた。ニューマンは張り切り全力投球で演じ出世作とした。同じように、もしメグ・ライアンが「羊たちの沈黙」のオファーを断らなかったら、彼女の女優人生は違ったものになっていたでしょう。本作がスティーブ・マックィーンのデビュー作(ノン・クレジット)であることも知られています。マックゥイーンが後年、「タワーリング・インフェルノ」で、ポール・ニューマンと並ぶトップクレジットに上がった時、20年前の主役と、クレジットにも上がらなかった無名の俳優が、肩を並べたことに感慨ひとしおだったに違いない。本作はのちのボクシング映画にも「ロッキー」を始めとし、大きな影響を及ぼしたクラシックの名品です▼ロバート・デ・ニーロの「レイジング・ブル」やダニエル・デイ=ルイスの「ボクサー」近年ではジェイク・ギレンホールの「サウスポー」に比べたら、ボクシング・シーンに物足りない点はあるものの、1950年代という時代を考えれば、草分け的作品に違いありません。ポール・ニューマン演じるロッキーは張り切りすぎてやや大げさな感じもしますが、肉薄した意欲には納得できました▼後半のミドル級世界タイトルマッチで、ロッキーがチャンピオンになるのは、あっさりしすぎた展開でしたけど、ロバート・ワイズは主人公が、少年院を脱走し、刑務所に入り、父親からは見放され、母親は神経を病み、付き合う相手は町のチンピラで、盗みの常習犯、どっちを向いても受け入れてくれる場所のなかった、主人公の少年期から青年期をじっくり描きこみ、世間の鼻つまみ者ではあるが、ボクシングで得たファイトマネーを、自分のためではなく母親の治療のために使っている、心根のやさしい青年であることも教えます▼彼が恋するのは妹の友だちであるノーマ(ピア・アンジェリ)。ピアは本作の時24歳。とても綺麗な人ですが15年後、睡眠薬の過剰服用で没。39歳の若さでした。しっかりした女性の好きなロバート・ワイズはノーマにも強いキャラクターを与え、最初は夫が廃人になるのではないかとボクシングを恐れていた妻から、ボクサーの妻たる者、夫がリングで戦うなら自分も戦わねばならぬ、と腹をくくり、世界戦を前に不安定になった夫を支えます。彼女のそういうキャラを、シルベスター・スタローンは「ロッキー」のエイドリアンに移行しています。八百長試合の誘惑を持ちかける刑務所時代のワルや、ロッキーの資格剥奪など、ハラハラさせるエピソードや、子供時代さんざんしごかれた(虐待に近い)父親を憎む息子に「私と結婚するため父さんはボクサーを諦めたのよ」という母親の告白など、しんみりさせる台詞をふんだんに織り込み「父さんが望むものは?」「チャンピオンだ」「任せろ」そして彼の口癖である「心配するな」と言い残し、いざリングへ。監督の個性でしょうが、ロバート・ワイズの手にかかると、どこかドキュメンタリーふうで、スタローンのようなハデハデしさはありませんが、接近戦の撮り方は絶品。本作はアカデミー賞モノクロ撮影賞に輝きました。ラストの締め方も良かった。ニューヨークをオープンカーで凱旋パレードするロッキーは、隣のノーマに「今のうちにいい思いをしておけよ。俺もいつかタイトルを失う。いつかこの右手もパンチを失う。それは避けられない。でも俺が勝ち取ったものは決して消えない」ここにはチンピラの不良少年から、ボクシングによって成長した冷静な、知的な青年像があります。今見ても見ごたえのあるボクシング映画の古典です。

 

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