女を楽しくするニュースサイト「ウーマンライフ WEB 版」

  • facebook
  • twitter
  • line
  • rss

特集「最高のビッチ」

2022年4月1日

特集「最高のビッチ15」①アデル・エネル
ブルーム・オブ・イエスタデイ(2017年 社会派映画)

監督 クリス・クラウス
出演 ラース・アイディンガー/アデル・エネル/ハンナー・ヘルツシュプルング

シネマ365日 No.3888

黒い宇宙

ナチスの戦犯を祖父に持つドイツ人男性トト(ラース・アイディンガー)と、ホロコーストの犠牲者を祖母に持つフランス人女性ザジ(アデル・エネル)が対立しながらも惹かれあっていくお話。仇同士だった過去の歴史を乗り越え「昨日咲いた花が、今日と明日を輝かせてくれる」というのがタイトル「ブルーム・オブ・イエスタデイ」の趣旨です。「4分間のピアニスト」のクリス・クラウス監督がメガホンを取っています。重い背景を歴史の教訓に終わらせず、今日生きる糧にしようという監督の意図は成功しているように思えます。でももっと直接的な感想を言えば、ザジみたいな女性がそばにいたらさぞ厄介でしょうね▼仕事熱心でホロコースト研究に没頭するトト。ここはドイツ州司法行政の中央研究所。同研究所の目玉催事「アウシュビッツ会議」にザジというインターンが参加することになった。トトは彼女が自分と犬猿の仲である同僚バルタザールの愛人というのも憎らしい。嫌味の応酬ばかりして「知能の低いバカ女」と妻ハンナ(ハンナー・ヘルツシュプルング)に悪口を言いふらす。ザジはフランスでトトの出版物を読み、彼に愛を感じ、彼に会うために研究所に来たという。しかし彼女にはトトの知らない面があり、彼女の祖母とトトの祖父がドイツの小学校の同級生だったことも、彼女が持ち込んだ資料でトトは初めて知った。トトは今でこそホロコースト批判の先鋒だが、彼の一族はナチ親衛隊で自身も17歳までネオナチとして活動していた。それを償うようにホロコースト研究に打ち込んだというのがトトの背景にある。ザジはそれを知らない。情熱的な著述家として惹かれていたトトが、加害者の先頭に立っていた事実を隠していた。逆上して彼の元を去る。5年後偶然再会したふたりはどちらも子供連れ。トトはザジの子供の名がカルミナだと知った。それは彼らが生まれる女の子につけようと決めていた名前。じゃ、あの子は…過去の悲劇は〝花〟に生まれ変わったのでしょうか▼ザジというのが非常に不安定な女性で、自殺未遂5度。トトは彼女と寝た翌朝、ベッドにいない彼女を探すとバスタブの中で手首を切って失神していた。なんだろう、これは。愛を交わした後に残るのは死にたくなるような絶望なのか。そうかと思えば…トトは隠していたが不能だった。それをザジはさりげなくリードして成功させた思いやりを持ち合わせていたのに。急転直下自殺未遂とは。彼女の気分は激変するらしいのです。根本は祖母がアウシュビッツで虐殺されたトラウマが、人間不信につながっているのかもしれません。一見今ふうな明るい女性ですが、どこか捉えにくいものを持っているように、アデル・エネルは演じています。ホロコーストという問題に向き合うこと自体が、意図せず心を深刻化させる。まして研究者(の端くれとしても)なら、真摯に愛の可能性を求めるだろう。ザジの両極端の攻撃性や受容性は、彼女の複雑な感受性のカムフラージュともみえます▼トトの妻役のハンナー・ヘルツシュプルングは「4分間のピアニスト」で、刑務所で見出される天才ピアニストを演じました。どっちか言うと「4分間」の方が完成度は高かった。歴史暗部をコメディで攻めた監督の斬新な意図はわかりましたが、ホロコースト映画のエポック・メーキングとは褒めすぎでは。自分で自分を持て余しているものの、折り合いをつけ着地点を求める、そんなザジをアデル・エネルが好演しています。どんな人もどこかで誰かと接点を見出したがっている。彼女は現在女性と暮らすことを選んでいます。ザジの得た多様性という「解」が、ホロコーストという黒宇宙を、それまでと違う目で再確認する手がかりになってくれればと思うのですが。

 

あなたにオススメ