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特集「異形の美術館」

2022年4月16日

特集「異形の美術館3」④
デッド・サイレンス (2008年 ホラー映画)

監督 ジェームズ・ワン
出演 アンバー・ヴァレッタ/ジュディス・ロバーツ

シネマ365日 No.3903

異形のメイクこれあり

異形の美術館3

本作は「怖いもの見たさ2」で既出ですが、映画におけるメイク・アップの威力って凄いな〜と感じ入り「異形の美術館」再登場としました。ジェームズ・ワン監督は「アクアマン」のような絢爛豪華なビジュアルの大作がありますが、どっちかという玩具の延長にある手作り感が好きな監督です。代表が「死霊館」のアナベル人形でしょう。愛らしい人形のドレスは服飾史にそのまま現れるような精緻なデザインと縫製、ですがその顔ときたら邪悪、狡猾、意地悪、不気味。ゾッとする異端の精神を無色無臭無音の蒸気のように放散します。本作もまた腹話術師メアリー・ショウ(ジュディス・ロバーツ)の使う人形ビリーが準主役と言ってもいい。頭でっかちで額が禿げ上がり、大きなギョロ目に唇は真っ赤な中年男がタキシードに蝶ネクタイを締めている。ビリーはある意図の元に若い夫婦に送られてきた。やがて連続殺人が起こる。被害者は舌を引き抜かれて死ぬという残忍な手口だ。主人公の青年ジェイミーは人形の送り主を探し、故郷の村レイブンズ・フェアに伝わる怪奇な伝承に行き着く▼ビリーはその昔、メアリー・ショウという村で有名な腹話術師が愛用した人形で、彼女の舞台は大入り満員だった。ある日客席にいた少年がメアリーの唇が動いている、と言ったものだから満座の中でケチをつけられたメアリーは根に持ち、少年マイケルを誘拐し監禁してミイラにした。少年失踪事件が村の大騒動となり、マイケルの家族は犯人がメアリーに違いないとリンチし、メアリーの舌を切り取って死なせた。以後、マイケルの血縁に連なる何組かの家族が同じ手口で殺された。メアリーの霊は生き残っているマイケル一族を根絶やしにすることにある。マイケルはジェイミーの大叔父にあたる。ジェイミーの妻が殺されたのは、彼女のお腹にジェイミーの子がいたからだ。ジェイミーは長年疎遠だった父の家に行く。迎えたのは若く美しい父の後妻、エラ(アンバー・ヴァレッタ)だ。車椅子の父を甲斐甲斐しく介護している。ところが彼女はメアリー・ショウの憑依だった。彼女はとっくに夫を殺し、彼が会話するのは彼女の腹話術だ。飲み物、食べ物は空洞である人形の胴体に造った容器に落ちる仕掛けだ。エラが正体を表し、人形の仕掛けがわかるシーンは最高のどんでん返しだろう▼ここでメアリーを演じるジュディス・ロバーツの登場だ。アンバー・ヴァレッタの綺麗な顔にヒビが入り、殻が剥がれ、出現したのは目も背けたくなる異界の女性。濃い隈取りと飛び出した鼻、グロテスクに裂けた口、獰猛な歯並び。ジェームズ・ワンは彼のイメージに叶う女優を探しあぐね、やっとブロードウェイの舞台女優ジュディスに出会った。メイクアップ・アーティストが、最高の悪役を作り出すための、凝りに凝ったメイクは実に4時間、ジェームズ・ワンは金縛りの目に合わせた彼女を賛美した。制作費200万ドルの低予算で完成したこの映画は当初こそ低評価だったが、重要なことはワン監督がホラー映画の担い手として、特異なビジュアルに手応えと自信を持ったことだ。結果のけぞるような人形と女優が「死霊館ユニバース」と呼ばれるホラーワールドを生み出した。「死霊館エンフィールド事件」および「死霊館のシスター」の、悪魔の尼僧ヴァラクに扮したボニー・アーロンズの特殊メイクは、語り継がれる傑作だ。彼女の「顔」だけでストーリーも主役も吹っ飛んじゃう迫力だった。それまでホラーはコケ脅しの二線級映画と見なされていたが、映画史が刻印するヒロインを作り出したのなら、異形のメイクこれありと言うべきだろう。

 

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