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令和4年4月のベストコレクション

2022年4月18日

特集「令和4年4月のベストコレクション」①
MINAMATA―ミナマタ(上)(2021年 ドキュメンタリー映画)

監督 アンドリュー・レヴィタス
出演 ジョニー・デップ/美波/真田広之/ビル・ナイ

シネマ365日 No.3905

前代未聞の被写体

ニューヨーク在住の写真家ユージン・スミス(ジョニー・デップ)は、コマーシャルの撮影で訪れたアイリーン(美波)から、日本のチッソ株式会社が何年もの間、有害物質を海に垂れ流し大勢が病気で命を落としている、助けが必要だ、患者たちの闘いに世界の注目を集めたい。来週の株主総会を撮ってください」と頼み「現地の様子です」と資料を置いていった。「日本は沖縄戦の撮影で懲りた」(ユージンは重傷を負っている)と言ったものの気になって資料を取り上げる。その足でライフ誌の編集長ボブ(ビル・ナイ)に会い「ピュリツアー賞ものだぞ。絶対に失望させない」と断言して熊本に向かった。アイリーンの案内で民家に泊まり漁師の父母から聞いた。「アキコは長女。脳性麻痺と診断されたが明らかに違う。あの子は私たちの宝だ。毎日食事させるのに5時間かかる。家族で養っていくのは難しい」とうなだれた。アキコの写真撮影は断られた▼住民の多くは疲れ、あるいは周囲の目を恐れていたが、自主交渉派のリーダー、ヤマザキ(真田広之)は激しい抗議運動を展開していた。「キヨシの息子は胎児性水俣病だ、キヨシ自身も手の震えや視野狭窄の症状が出ているが認定されていない」。ユージンはチッソ水俣工場に出向いた。巨大なコンビナートが天を衝いて林立する。ユージンは何から取り掛かっていいのかわからない。言葉も喋れずみな遠巻きにして近寄らない。「こんなところに来たのが間違いだった。俺には自分の歌が聞こえない」と弱音を吐く。だがアイリーンは小さな家を見つけニューヨークのユージンの暗室を再現した。ボブから国際電話が入った。「君の記事を来月のストックホルムの国連人間環境会議に絡めて特集する」まだ1枚も撮っていないのに「来週までに写真を送れ」。あてもなく公園にいると両脚をコルセットで固定した少年が近づき「僕に触るの、怖くない?」と聞いた。言葉は充分わからなかったが「怖いものか」と答えた。「僕はシゲル」「ユージンだ」少年の5本の指は反り返って変形し、人の手の形ではなかった。それでも両手でカメラを持ち、何か写そうとしていた。ユージンはアイリーンに言う。「先住民は写真を撮られると魂を抜かれると恐れた。でも写真は撮影者をも一部奪い去る。写真家は無傷でいられない。撮るからには本気で撮ってくれ」。チッソ水俣工場付属病院に行く。厳重な警戒の目を盗んで病室に入る。何人もの患者のベッドが無機質に並んでいる。アイリーンが通訳した。「撮ってもいいけど顔はいやだと」「瞳の奥にあるものを撮りたい。そこに真実があるんだ」「患者の共感を得るにはあなたも共感を示して」。同病院のヤマシタ博士のラボには初めての発症からの資料が保管されてあった。狂ったように跳ねる猫、歪曲した背骨のレントゲン、患者は全身痙攣とマヒを生じ、脳組織がボロボロになる。「チッソは15年前から知っていながら水銀を垂れ流したのよ」話すアイリーンに「あっちへ行ってカメラを構えろ。感情に支配されたら負けだ。命さえ落としかねない。何を撮るべきかだけを考え伝えたいことに集中しろ。現場での感情は何だ。不快感か悪意か、写真は撮る者の魂を奪う。それだけ忘れるな」。ユージンもまた、世界の誰もその実態を見ていない、前代未聞の被写体に自分が向き合ったことを思い知る。

 

 

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