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令和4年4月のベストコレクション

2022年4月25日

特集「令和4年4月のベストコレクション」⑧
Summer of 85(下)(2021年 恋愛映画)

監督 フランソワ・オゾン
出演 フェリックス・ルフェーブル/バンジャマン・ボワザン/バレリア・ブルーニ・テデスキ

シネマ365日 No.3912

新しいステージ

まだ土を盛っただけの墓で踊ったアレックスは、守衛にしょっ引かれ社会福祉士や両親から理由を聞かれるのですが、ガンとして言わない。なぜそんな突飛なことをしたのか、理由を話さないと更生施設送りという重い処分になります。彼は散々手こずらせたうえ、やっとダヴィドとの約束だったと明らかにします。裁判長は「故人との誓いを守るための行為だったとはいえ、墓を冒涜する行為は犯罪であり、法の裁きを受ける。判決。140時間の社会奉仕活動に従事することと、精神科で継続的な治療を受けることを勧める」。物々しい判決ですが、人生経験を積んだいい年の裁判長としては(なんだ、そんなことか)だったと思うのです。それがほとんどのオトナの実感ではなかったでしょうか。バカな約束だけど、まあ真面目な青年にありがちなことだ、という▼それを着地点にしたのが(軽いなあ)と思った理由なのですが、オゾンはそこで終わらない。社会奉仕で海岸のゴミ拾いをするアレックスは、一仕事終えて、防波堤にいる青年に気がつきます。以前ダヴィドが助けた酔っ払いです。ダヴィドは親切に彼を家まで送り、アレックスの危惧通り出来ちゃうのです。「ダヴィドがなんで彼に親切だったのか、なぜ僕を救助したのか、彼の顔を見たときにわかった」とアレックスは思い出しますが、簡単にいうと「したいなあ」とそそる相手だったってこと。アレックスは早速その気になり、親しく彼に話しかけ「海に行こう」と誘い、カリプソ号で沖に出る(それ、ダヴィドのヨットなのだけど)。夕陽を浴びたセーリングは愛の再現です。オゾンがここで映しているのは青春の後ろ姿です。傷ついても立ち直り、復活していくのが青春のお話。ダヴィドは既に過去。新しいステージがアレックスに開いている。ティーンエイジャーからすれば青春は後ろ姿の連続だ。オゾンいわく「人生のある地点からある地点に辿り着くまで、試練を乗り越えて成長していくプロセスを映像化するのが好きなのです」。その意味では成功だと思います。でも劇中ケイトがアレックスにいうこんなセリフ。「私の本音を聞きたい? あなたが愛したのはダヴィドではなく、自分の創り出した幻想よ。顔と体が好きになって心も理想通りだと期待した」彼は存在しなかった、少なくともあなたの心の中以外には、とケイトは言っているのです。「そんなはずはない、彼と一緒にいて愛し合った。君も彼と寝ただろ」。ケイトはやや沈黙し「私たちが思っていたのは彼とは別人だったのね」▼私はむしろこのヴィジョンが、オゾンが常に執着してきた現実と幻想のはざまであり、得意としていた領域だったと思えるのです。「まぼろし」にせよ「スイミング・プール」にせよ、あるいは「17歳」にせよ、ほとんどミステリーと言える「2重螺旋の恋人」にせよ、洗練された虚無の世界を取り上げオゾンにかなう監督はいただろうか。思い返すにつけ、本作の凡庸さが浮き立ちました。

 

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