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特集「最高の悪役」

2022年5月5日

特集「最高の悪役5」⑤ オーソン・ウェルズ
第三の男(1952年 犯罪映画)

監督 キャロル・リード
出演 オーソン・ウェルズ/ジョゼフ・コットン/アリダ・ヴァリ

シネマ365日 No.3922

いいじゃない、愛が生まれても

オーソン・ウェルズ演じるハリー・ライムはとにかく悪党である。第二次世界大戦直後、闇市全盛のウィーンが舞台だ。米英仏ソに4分割され中心部は国際警察が管理していた。ホリー・マーチン(ジョゼフ・コットン)は、親友ハリー・ライムに会いに来た。売れない作家の彼はハリーから仕事を依頼され、大喜びでニューヨークから渡欧した。ハリーの家に到着した途端、前日事故死したと聞かされる。車に撥ねられ即死だったというが、いきさつがさっぱりわからない。ハリーの恋人、女優のアンナ(アリダ・ヴァリ)、事故を調査するキャロウェイ少佐と出会う。少佐はハリーの正体が密売人の悪党だと告げるがマーチンは信じられない。事件の目撃者である下宿屋の主人は、事故現場に3人の男がいたという。2人には会えたがもう1人〝第三の男〟がわからない。誰も詳しい話をしたがらず、下宿屋の主人は殺されてしまった▼キャロウェイによると「ウィーンには充分なペニシリンがない。ハリーは軍病院からペニシリンを盗み、薄めて売った。それは殺人に等しい。脚の化膿した男、妊婦に子供たちの骨髄炎に薄めたペニシリンを使う、死ぬのはまだいいほうだ。不幸な子供は頭をやられ施設行きだ。彼はハービンという軍病院の看護兵を巻き込んだが、彼は消息不明だ。ハリーの指紋が証拠としてある」。犯罪者ハリーにがっくりきたマーチンは「国に帰る」。その前にアンナに会った。「ハリーとは親密な関係だった?」「愛しあっていたわ」。過去形だ。不定形の愛に疲れ、それでも思い切れない残滓がアンナの声に滲んでいる。不安な時代だった。彼女はハリーにパスポートを偽造してもらっていた。国籍を偽っていることがわかりソ連のMPが連行した。強制送還だ。マーチンはアンナのアパートのそばで死んだはずのハリーに会う。追いかけたが忽然と消えた。ハリーを目撃した情報を受けたキャロウェイが、ハリーの墓を掘り起こすと埋まっていた死体はペニシリンの仲介人ハービンだった▼ハリーを信じたいマーチンは公園の大観覧車の上で会った。ハリーは戦争などの巨大悪に比べたら自分のやっていることなどちっぽけなものだ、「イタリアの30年に及ぶテロと虐殺の結果、ミケランジェロやダ・ヴィンチがルネサンスを生んだが、スイス500年の人類愛と平和が生んだのは鳩時計だけだ」と自説を開陳する。虚妄に酔いしれた友人に匙を投げたマーチンは、囮になってハリー逮捕に協力するとキャロウィンに言う。見返りはアンナの釈放だった。巨大な地下水道での追撃で、マーチンはハリーを射殺した。ハリーを埋葬した後マーチンは空港に向かう。長い並木道を歩いてくるアンナを見かける。車を降りたマーチンは墓地の路傍でアンナを待つ。彼女は無視。男に一瞥も与えず歩み去った▼アンナはマーチンのおかげで送還を免れた。いわば命の恩人だ。それでも彼が恋人を売ったことが許せない。ウィーンで〝第三の男〟を追って走り回ったマーチンは、アンナを愛したためにとんだ貧乏くじだったが、彼は帰国して小説のネタにするらしいから元はとれそうだ。暗闇にいたオーソン・ウェルズに照明の当たった顔はプーチンに似ていたわ。自分の所業のために誰が苦しもうと、愛と憐憫のかけらも持てない男。いるのですね。アリダ・ヴァリがいい。愛しているかどうかさえ自分でもわからないが、得体のしれない男ハリーに惹かれる女。アパートに猫を飼っている。よく太ったふてぶてしい猫だ。マーチンを無視する。「なついたのはハリーだけよ」。彼女がハリーの愛について触れるのはこの一言のみ。寂しい女とアウトローの男と彼らだけになつく1匹の猫。愛が生まれたっていいじゃないかという気になる。

 

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