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特集「最高の悪役」

2022年5月7日

特集「最高の悪役5」⑦ ロバート・ライアン
優しき殺人者 (1952年 サスペンス映画)

監督 ハリー・ホーナー
出演 アイダ・ルピノ/ロバート・ライアン

シネマ365日 No.3924

絶妙のふたり劇

最高の悪役

危険な場所で」に続くアイダ・ルピノとロバート・ライアンの共演。前ぶれなく主人公ハワード(ロバート・ライアン)の逃亡から始まる。ハウスキーパーの仕事を終えた彼が雇い主の女性に「終わりました、奥さん」と声をかけ、返事がないのであちこち部屋を覗く。クローゼットを開けると仰向けに倒れた奥さんの死体が(死体でしょうね、瞬きしたけど)。恐怖にのけぞって家を転がり出たハワード。彼が次に姿を表すのは戦争未亡人ゴードン夫人(アイダ・ルピノ)の家だ。家の片付けの日雇い仕事だった。夫人はクリスマスの準備に忙しい。時代は第一次世界大戦後の1918年。ハワードは物静かな男だが、ちょっとおかしなところがあった。夫人が男のコートをラックにかけると「コートが汚れてしまう」と言って外したので、夫人は2階のクローゼットにしまい直す。室内を見渡す彼の視線がネットリと粘液質だ。「僕の仕事に不満ですよね」と急に夫人に話しかけたものだから「??」。「人の評価が気になるのです」といきなり真剣な話題。「何か問題を抱えているの? 聞くわよ」夫人は親切だ。「生きてる死骸」「深夜の歌声」「ヒッチ・ハイカー」などの犯罪ものに出演、監督してきたルピノが、朗らかで健康な未亡人を演じる▼友達もいない、家族もいないハワードに夫人は同情し「手伝ってくれる人を探しているの。1週間に2、3日でもきてくれたら助かるわ」と申し出る。喜んだハワードはせっせと床拭きをする。夫人の姪(高校生)が立ち寄りハワードに話しかけるが、口の重い彼は気の利いた返事ができない。「協調性のない人ね」と見下し、磨き上げた床にパラパラとポテトチップをばら撒き帰った。ハワードの神経が反応した。「いつから僕を監視しているのですか。仕事が遅いのがご不満ですか。僕を無力な人間扱いするな!」太い眉を吊り上げ食ってかかったと思うと「家がわからない。記憶が飛ぶ。どこから来たのだろう」。夫人はオロオロ。症状は短期記憶喪失症か統合失調症なのだろうか。「人を傷つけたくないが、自信がない。突然正気に戻るけど、頭が混乱するのだ。自分が何をしたのかわからない。新聞で誰か殺された記事を読んだら、犯人が自分じゃないかと思う。今朝、僕に何があったか教えてくれ」▼夫人は広い家の2階を下宿人に貸していた。その男性は今朝出張で出かけた。「あなたは寛大でやさしい。症状が良くなるまでここで暮らしたい。彼がいなければ僕が住めるのに」夫人はつい下宿人が戻るまで「2階を使ってもいい」と言った。そこへ、下宿人の友人が「彼の留守中貸してもらうことになった」と現れた。ハワードは逆上する。その男を手荒く追い出し「僕を裏切ったな。信じていたのに残念だ」乱暴に電話線を引きちぎり家中の扉をロックし、夫人を監禁した。近所の子供たちが遊びにくるがハワードは体よく追い返す。「腹が減った。食事をしよう」。テーブルに座り「誰も僕を気にかけなかった」「あなたを大切に思う人がいるかもしれない」と夫人は男の神経を宥めようとする。「愛されたこともない。あなたのような人は初めてだ」。愛の告白か。こわ。ハワードは2階に上がり夫人の夫の軍服に袖を通し「僕も兵士に見える。あなたの夫のようだ。僕の新しい生活がここで始まる。あなたが記憶障害を助けてくれる。僕を騙さないな。ウソついたら許さん」。夫人は生きた心地がしない。雑貨屋の丁稚が注文の品を届けにきた。夫人は小切手を切りに席を外した。「おかしいな、いつも月末払いなのに」丁稚がつぶやく。小切手にこう書いていた「助けて。命が危ない」。取り上げたハワードの目の恐ろしさに夫人は気絶した▼どれほど時間が経ったのか。気がつくと夜だ。階下は整然と片付けられていた。「終わりましたよ、ゴードン夫人。掃除を確認してください」常人に戻ったハワードが穏やかに報告した。電話修理がきた。何度電話しても通じないと近所から通報があったという。「閉じ込められたの。警察に通報して」大急ぎで耳打ちする夫人に「まかしてください」修理工は車に戻り発車。ハワードは辞去しようとした。警察が来た。パトカーのライトが待ち受けている。ハワードは「それじゃ」と挨拶し、なんの不審もなく光の方へ歩いて行った。密室のふたり劇です。恐怖に巻き込んでいく男と、巻き込まれていく女の緊迫感が絶妙。アイダ・ルピノとロバート・ライアンの、時に微妙に、時に瞬時に変化する表情を見ているだけで呼吸困難になりそう。サスペンスの佳品です。

 

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