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特集「最高の悪役」

2022年5月9日

特集「最高の悪役5」⑨ アイダ・ルピノ2
刑事コロンボ「白鳥の歌」(1973年 テレビ映画)

監督 ニコラス・コラサント
出演 ピーター・フォーク/ジョニー・キャッシュ/アイダ・ルピノ

シネマ365日 No.3926

聖人ヅラした脅迫者

最高の悪役

シネマ365日「刑事コロンボと9人の女優」で、アイダ・ルピノ出演の「死の方程式」を取り上げました。本作はその2年後の作品です。「死の…」ではあまり事件に絡まない役でしたが、今回は被害者役。有名なカントリー歌手トミー・ブラウン(ジョニー・キャッシュ)の妻で彼に殺されます。ルピノらしい悪役です。宗教にはまり、売れっ子の夫の収入を「魂の十字軍」と称する宗教活動の資本とし、神を讃える最高の礼拝堂を建設するとか、宗教団体に寄付するとかにつぎ込み、夫は高級車も買えず、レンタカーを運転している。とうとう「利益は折半にする、これ以上搾り取られるのはイヤだ。俺が歌わないと金は入らないだろう」と楯突くが、妻はニヤリ。「あなたが刑務所を出られたのは誰のおかげ?」「約束は守った。君と結婚したし、誠実な夫だった」「私の前ではね。あなたは欲望の塊よ。あなたを罰するわ。私とメアリーアン(バックコーラスの女性)でね。彼女を娘と偽ってモーテルに連れ込んだのは幾つの時だった?」と傍のメアリーアンに訊く。「16歳です」「モーテルにはあなたの筆跡が残っている。まだ3年前よ。未成年者への暴行は犯罪よ。あなたは私から逃げられない」と勝ち誇る▼夫が言う妻は「聖人ヅラした脅迫者」でいつしか彼女に殺意ムラムラ。自家用機のセスナでロスに飛ぶ途中、妻とメアリーアンに睡眠薬を飲ませ、自分はパラシュートで飛び降り、墜落現場に戻るという大胆な仕掛けで2人を殺害した。コロンボ(ピーター・フォーク)は、妻の弟から偽装殺人だとの訴えがあり捜査する。「それじゃ、これで」と帰ると見せかけまた引き返す、例のしつこい質問の波状攻撃で傍証を固め、トミーの犯罪を確信するが、証拠のパラシュートがない。ボーイスカウト総出で探し出すというハッタリをかまし、トミーが先手を打ってパラシュートを隠しにきた現場をお縄にした。コロンボ・シリーズ定番のホロッとするラストも用意してある。カーラジオに彼の歌をかけてやり「こんな歌を歌える人に悪人はいません。自首するつもりだったのでしょう?」。シリーズ中の名作「別れのワイン」や「ホリスター将軍のコレクション」「偶像のレクイエム」などに比べ本作を弱々しくしたのは、このセリフのせいだ。悪い人でない人が人を2人も殺すのかよ▼内容の薄いドラマを、ルピノのトチ狂った妻が濃くする。さだめし男性なら「こんな女房は殺されて胸スカ」と(誰もいないところで)叫ばずにおれない女だろう。崇高な正義の御旗があるからなお始末が悪い。しかし彼女には「欲望の塊」の夫のために散々イヤな思いをさせられてきた腹いせもある。44歳になったルピノは頬や顎に少し肉がつき、大きな目には意地悪さが煌めく。ルピノ作品に犯罪映画が多いのは、天真爛漫な女は自分に似合わないことをよく知っているからだ。彼女の監督作品にしても、愛と平和の家族映画とは無縁である。ひとつ踏み外せば異世界の亀裂に足をすくわれる、というか、自ら惹き込まれるアウトサイダーの要素が男にも女にもある。ルピノは素直にそれを信じている。同じタイプの女優の最高峰にベティ・デイビスがいる。ルピノは自分のことを「安物のベティ・デイビス」と自虐ネタにしているが、ふたりとも女優としてのストロング・ポイントを知り抜いていた。ルピノには「深夜の歌声」という佳品がある。場末の酒場に流れてきた女が、孤独や絶望などという形容がちゃんちゃらおかしくなる寂しいものを、人は持って生きていくのだと、うそぶくようなピアノの弾き語りが絶品だった。

 

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