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特集「怖いものみたさ」

2022年5月20日

特集「怖いもの見たさ4」⑩
インシディアス(2011年 ホラー映画)

監督 ジェームズ・ワン
出演 パトリック・ウィルソン/ローズ・バーン/バーバラ・ハーシー/リン・シェイ

シネマ365日 No.3937

ジェームズ・ワンの磁力

「お化け屋敷が大好きだ」とジェームズ・ワン監督はインタビューで答えています。であれば、彼のホラー作品は基本「お化け屋敷」であると考えても差し支えない。本作にも怖いカタチが瞬間移動して観客を驚かせ、最後に悪魔が姿を現す。落ち窪んだまなこ、細い顎、とんがった鼻。丸顔の「のび太」君みたいな悪魔は見たことないから、造形心理学ではこうなるのでしょう。粗筋は、引っ越したばかりの家でジョシュ(パトリック・ウィルソン)と妻ルネ(ローズ・バーン)の息子ダルトンが昏睡する。医師には理由がわからない。ジョシュの母ロレイン(バーバラ・ハーシー)が、友人のエリーズ(リン・シェイ)を紹介する。彼女によるとダルトンには並外れた幽体離脱能力があり、あちこち彷徨っているうちに「彼方の世界」に入ってしまった。そこは死者の国、暗黒の無明朝夜。死者たちはこの世に帰る肉体が欲しいからダルトンを狙っている、さらに「彼方の世界」のボス、悪魔は人間に憑依して現実社会で呪いをかけ悪いことをしたくてたまらない性悪の親玉だ。うかうかしているとダルトンは悪魔にさらわれてしまう、「パパ、取り返してきて」と女性たちの懇願を受け、ジョシュはエリーズの念力によって「彼方の世界」に送り込まれ、死者たちの妨害に会いながら、息子を取り返し、この世に戻ってきた。ところが悪魔は彼と一緒にやってきて、あろうことか、ジョシュに憑依していた、というお話。憑依した後は「インシディアス2」に続きます▼長い暗い階段、音もなく閉じる、あるいは開く扉にカーテン、屋根裏部屋、ベッドの下、赤い血の手型、ヒュッと横切る黒い物体など、お化け屋敷のお膳立てが揃います。ワン監督はホラー愛の塊ですから、一切手抜きがない。そんな情熱が彼の映画を高度にしています。しかし、それだけか? 「怖いもの見たさ」だけがホラー映画のヒットする原因かしら。契約最優先のビジネス社会、科学で解明される宇宙に解剖学が分析する人体。あらゆる角度で人も世の中も「見えないもの」「よくわからないもの」の肩身が徐々に狭くなっている。ところが人は本来魂とか心とか、気配とか、形にはないが絶対に存在する「見えないもの」に対する暗黙知があります。よく言うでしょ。「そんな気がした」と。「気」ですよ、「気」を大事にし、理解する人を抜きにしてホラー愛は成り立たないとさえ、わたくし、思うものであります▼「彼方の世界」なんて本来バカバカしい問題だと片付けてもよいのに、いいやそうじゃないと片隅で「心」というアナログが囁く。リドリー・スコット監督が「最後の決闘裁判」の興収が伸びず、「スマホ人間にはわからんのだ(この通りではなかったですが)」といたくご不興だったのは、スマホで簡便に解決を得る、想像力の欠如したアタマにはわからんという憤りだったのではないか。彼もまた解釈次第でいかようにも変化し、展開できる内面の劇の豊かさに魅入られているからに違いない。元来アーティストとはイマジネーションで勝負する才能です。ワン監督はファンタジーの申し子です。ホラーの基軸はファンタジーに、アンチ・リアルが描き出す世界にあります。恐怖とはその最たるテコのひとつであり、ゆえにホラーファンは、「見えない」「解決がない」「結論が出せない」モヤモヤを張り巡らした良質の作品の磁力に吸い寄せられる。本作にも充分それがあります。

 

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